勇者、寝返る
「くっ、、勇者、これほどまで、とは、」
草木が生い茂り不穏な空気が漂う森林、僕らがいる中心から約半径10キロメートルは焼け野原となっていた。至る所には大小様々なクレーターがあり中には底が見えないものもある。
この惨事は俺と目の前にいるこいつの戦いによって生じたものだ。
シルエットこそ人間だが、肌の色は毒々しく髪の毛は白く目は赤い。彼はこの世界の種族最強の魔族でありその中でも魔王直属の最強格の4人に数えられる四天王の1人であった。
「まぁ、お前はなかなかやる方だよ。この世界にいる中でも、今まで戦ってきた奴らの中でもトップクラス。四天王と呼ばれるのもうなずける」
俺は先程の攻撃により瀕死状態になった目の前の魔族に向かってゆっくりと歩み始めた。
「特に途中の自傷覚悟の第5階位魔法はやばかった。5つの頃に受けていたなら片腕くらいは失って居ただろう」
「くっ、、、、」
「まあ今は片腕で勝てるがな」
そう言い終わった頃には魔族の目の前だ。
目の前にいる魔族は至る所から流血させている。
右手に持つ聖剣を振り下ろせば彼は息絶え、俺の任務は終わる。
しかし何故だろう彼の目はまだ死んでいなかった。
不思議に思ったからだろうか、何故かは分からないがこの時の俺は剣を振り下ろすのを躊躇ってしまった。
思えば俺はなんのために勇者として戦ってきたのだろう。
「まっ!待ってくれ!頼む待ってくれ!」
唐突にそう叫ぶ魔族
「なんだ?」
「こ、こちら側に来ないか!?なぁ!?どうだ!?僕はこれでも四天王だ!融通はきく!金も女も地位も!思い通りだ!しかも魔族は実力社会だ!お前ほどの実力者なら俺ら四天王と魔王が認めたとあれば誰も文句はいわん!なあこっちに来ないか?」
必死に叫ぶ魔族、魔族側への勧誘か。俺はこれでも勇者。人間社会で言うところの希望であり社会的地位もそれなりだ。
だから俺は反射的に断ろうとした。
だが、よく考えてみれば俺の勇者としての生活は夢に描いたような華やかなものではなかった。
勇者に選ばれなかったものからの嫉妬
勇者としてのプレッシャー
勇者にしか頼めないめんどくさい依頼
勇者だから、と地位と金を目当てに近づいてくる女
など
"勇者"というのは思ったよりめんどくさい
金も地位も女も思いどおりかのようにみえて
実際は多額の金を使う時間は無いし
地位はそれにより謁見や会食などで溢れている
女も近寄って来るものは無駄に擦れて打算的な貴族共の令嬢ばかり。
俺の事を好きになった、なんてわけじゃない。
正直人間社会にも勇者という肩書きにも窮屈していた。
ならばなぜ魔族と戦うのかそれは仕事だったからだ。
勇者でいる限り勇者としての任務をこなさねばならない
ならばなぜ勇者になったか。それは単純に適性と才能があり普通に生きていたらあれよあれよという間に勇者になってしまった、としか言えない。別に勇者になりたかった訳じゃない。単純に俺は自分が成長するのが好きだったしお金も多い方が良かった。地位も高い方が低いよりいいだろう。その結果が今の勇者というわけだ。
何度も言うが勇者に思い入れはないしなんなら人間社会にもない。
魔族を憎んでいるかと言うと俺自身はそんなことも無く魔族と戦うのは、世間の魔族に対するイメージが悪いこと、そして上の方の政略的な問題が絡んでいるためだ。それが仕事として勇者に下ろされている。
魔族は人間より魔力保有量が高く、魔力操作力も繊細、身体能力も高いと平均的に人間より戦闘力が高く好戦的なのが特徴であり実力主義なところもある。
また人間だから、エルフだからなどといった差別意識は少なく、実力主義なため弱いやつは〜、強いやつはといった差別意識が強い。その為結果的に人間は魔族に舐められることが多い。
なので目の前の魔族が言うことは正しいし真実だ。
俺も魔族側に偏見はなく、人間社会にも勇者にもうんざり、実力社会な魔族サイドに行けば割と融通はきくだろうし四天王のお墨付きときた。今より自由な暮らしは間違いないと思われる。
だからおれは
「わかった、行くわ」
「そうだよな、ダメだよな、だがそこをなんと、、、、、、、、、、、え?」
「いやだから?そっち側にいくわー」
「、、、、は?えええ!?お前勇者だろ!?!?そこは断れよ?!?!」
俺の予想外の返答に魔族は思わず突っ込んでしまったのだった。
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