高層階の死神(4)決断
エレベーターの中では、利用者同士でも睨み合っていた。
ゆかりに復縁を迫る派と、それは横暴すぎるという派だ。
しかし、助かるための方法を思い付くわけでもなく、イライラだけが募って行く。
そこで萌葱達高校生は、8人と多いながらも、「子供だから」として意見を聞いてもらえなかった。
「どうしよう。何かないか」
こそこそと有馬や輪島、小鳥遊達が不安げに相談するが、解決策のめどはたっていない。
萌葱は皆を観察していた。
復縁を迫る人は、正直だと言えた。死にたくない。その主張通りだ。
それに反対する人は、やはり死にたくないとは思っているようで、もめているのを見て自発的にゆかりが復縁に賛成しないかと期待しているようだ。
(どいつもこいつも)
萌葱は視線を引き剥がし、溜め息をついた。
やがてゆかりが、皆を巻き込むのはどうかと思ったのか、仁志の前に立った。
「信じるって言えば、皆を助けてくれるのね?本当に」
それに、香川が悲鳴じみた声を上げ、皆、固唾を呑んで仁志の返事を待つ。
「ああ。俺を信じるなら青いコードを切れ。死んだほうがましって言うなら、赤いコードを切れ」
そう言って、線の出た箱を突き出す。
ゆかりは迷いながら、手をゆっくりと伸ばそうとした。
それに、てんでに皆が声を上げる。
「待て!その男は信用できるのか?反対なんじゃないのか?」
「自分の命もかかってるのよ!?そんなわけないじゃない!」
「保証できるのか!?」
「そ、そんなのもどうやって!?」
わあわあと掴み合い寸前の言い合いを始める。それを聞いていた香川が
「いい加減にしてよ!ゆかりさんにまた苦しめって言うの!?」
と声を上げ、
「子供は黙ってろ!」
などと言われ、唇をかむ。
「俺達だって条件は同じだ!」
「ここは、落ち着いて」
有馬と輪島がオロオロしながら言うのにも、
「た、多数決はどうですか?」
と小鳥遊が提案するのにも、彼らは無視か噛みつくかで、相手にしない。
「こんな時でもスカしたやつだな、お前も」
今川が呆れたように萌葱に言った。
「騒いだところで仕方がないだろ」
萌葱が答えると、今川はポケットからミントタブレットを出して口に入れたが、その手は細かく震えていた。
城崎と洲本は、抱き合ってずっと泣いている。
そんな皆を見てゆかりは混乱を深めて狼狽え、仁志は楽しそうにゆかりを見て笑っている。
(ああ。吐き気がする)
萌葱は嘆息し、無造作に仁志に近付いて、青のコードを引き抜いた。
あまりにも動きが普通過ぎて誰も止められず、それを、全員が呆然として見ていた。
「な――!?」
「も、望月、君!?」
「青だと!?」
「も、望月、お前ってやつは――!」
爆発は起こらない。仁志すら呆然とし、ほかの皆は腰を抜かして座り込んだりしている中、平然としているのは萌葱だけだった。
「あなたはうそをついた」
萌葱は仁志に向かってそう言った。
「な、何で」
萌葱は視線を外さないまま、喋る。
「このエレベーターを降りたら、あなたは確実に捕まる。復縁なんて無理な話だ。あなたはここで、ゆかりさんと死ぬ気だった。
でも、青いコードを切って助かったら、ゆかりさんは皆から自分勝手な判断をしたと責められると思った。自分が苦しむ間、ゆかりさんも苦しめたかったんですか」
ゆかりが座り込んで、
「そこまで……そこまで苦しめたいの?」
と呆然とする。
萌葱は言いながら、呆然とする仁志から爆弾を受け取り、それを輪島に渡した。
「お、俺!?」
輪島が言う。
呆然としていた仁志は、体を折るようにして笑い出すと、どこから取り出したのか、ナイフを構えた。
「キャー!!」
新たな悲鳴が上がる。
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