高層階の死神(2)宙吊りのエレベーター
萌葱達は全員が高山に会った事を話し合い、不気味さを感じた。
「あれ、本当に警察官?俺、死神かと思ったぜ」
「警官なら、単独では動かないんじゃないの?」
「噂しか知らないけど、変わった刑事らしいよ。一匹狼的な人で、捜査手法も違法すれすれとか言われてて。でも、検挙率もすごく高いとか」
蘇芳が言い、浅葱と萌葱は考え込む。
「何しに来たんだ?放火事件に納得が行かないのか?真犯人を素人に指摘されて腹が立ってるとか?」
浅葱が言いながらも、そういう感じでもなかったなあ、と付け足す。
萌葱はやり取りを思い出して、不安を感じた。
「何か勘付いてるのかも……」
「何か?まさか」
蘇芳が緊張する。
「わざと嘘を混ぜて雑談しに来ただけだったから……」
鍋の中で湯が沸く音だけがいやに響いた。
「まあ、気を付けた方がいいな、あの人には」
「そうだな。うん」
しかし、思いもかけない事件に巻き込まれ、特殊能力を使う羽目になるとは、思いもよらない事だったのだ。
お茶汲み、掃除、備品整理。高層ビルの最上階にあるビルのメンテナンス会社に社会見学に来た萌葱達は、秘密に触れない場所での簡単な仕事の手伝いをして、実習を終了させた。
「こんな一等地で働けたらなあ」
「俺は外科医になって家を継ぐからな。メンテナンスは雇う側だ」
「はいはい。その前に大学医学部に入んないとね」
騒ぐメンバーに、小鳥遊が静かにしろと割って入る。
遠足以来、なぜかこのメンバーが寄り集まって来て、気付くと8人グループと皆から認識されるようになっていた。特に、萌葱と今川は仲良しと思われているし、実際、大抵一緒にいる。萌葱も今川も、お互いに楽だと感じているのだ。
そこに小鳥遊と香川がよく話しかけて来て、そうなると自動的に小鳥遊狙いと思われる有馬が来て、何かと萌葱に張り合おうとする輪島も来、後は、小鳥遊と仲のいい城崎と洲本が合流するというわけである。
その流れで、社会見学も一緒になったのだ。
終了のサインをもらい、ほかの利用者数人と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
社会見学に訪れる先は3つ。このメンテナンス会社と、明日は都庁、次はスーパーマーケットだ。
(スーパーに行ったら、お買い得品とか買えるかな。あそこは、普段は値段が高くて利用しない店だからな)
萌葱がそんな事を考えていると、不意にガクンと揺れてエレベーターが止まった。
「キャア、何!?」
口々に騒ぎながら、しゃがんだり壁に手を付いたりして様子を窺う。
萌葱達以外に乗っているのは、マスクと帽子で顔が隠れている男と、若いOLが3人、スーツ姿のビジネスマンが2人だ。
その内のドア付近にいたOLが、非常ボタンを押した。
『はい、管理室です』
「エレベーターが急に止まったんですけど」
『すぐに原因を調べます。そのままお待ちください』
それを聞きながら、
(非常ボタンを押せばこういう風に対応するのか)
と思い、各々、割と呑気に構えていた。
が、その空気が一気に変わる。
マスクの男が、帽子とカツラとマスクをむしり取り、それにOLの一人が怯えて悲鳴を上げた。
驚いたのはともかく、悲鳴を上げるほどかと訝しんだ萌葱だったが、その理由も怯え方も、納得した。
「ゆかり。会いたかったぜ」
「ど、どうして。もう別れて、関係ないでしょ」
「冷たい事言うなよ。もう殴らないから」
「や、やめてえ!お願い、します!」
ようやくそのやり取りをぼんやりと見ていた皆が、男を取り押さえようと動こうとするが、男は箱を突き出した。
「死にたくなかったら動くな!この箱ごと吹き飛ぶぞ!」
全員が見事にピタリと動きを止め、男を凍り付いたように見つめた。
「じょ、冗談、だよな?」
ビジネスマンが恐る恐る言うのに、萌葱が小さく呟く。
「嘘じゃなさそうだ」
OL達がすすり泣き始めた中、管理室からの、
『もしもし。もしもーし』
という声が響いた。
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