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読み切りシリーズ

~三流錬金術師の異世界無双~外れジョブを引いて冒険者街道から追放、底辺で隠居していた俺が異世界で無双する

作者: るーじ

ランキングに無双系が多いので、試しに書いてみました(。。

 俺はクロムストック。田舎町生まれで、【初心者錬金術師】という外れジョブを引いて、社会の底辺で暮らしてきた。そんな俺が、何故か最高神の中央神殿に呼ばれていた。困惑する俺に、降臨してきた最高神が語ったのは到底理解できない内容だった。


「いせかい? すごく遠い町に行くのですね」

「異世界転移は転移先の世界で広まっている魔力量その他の都合上、どうしても転移できる上限が決まっている。お前は、その、なんだ。ジョブもレベルも、その、適用範囲内でな。うむ。転移先の神が求める条件を満たしている、最適な人材なのでな。転移してもらうぞ」


 言いづらそうにしている最高神だが、俺が『いせかい』に行くことは決まっているようだ。


「本当にすまん。私もな、まさか創世記の頃に作ったジョブがこんなことになるとは思っていなくて、その、あれだ。お前にとってはこの世界で暮らすより、転移先で暮らす方が幸せだと思うのだ。一度決定したジョブは変更できないため、その。援助は可能な範囲で行うから、ああ、うむ、向こうでも息災にな」


 最高神は、この世界最高の存在とは思えないほどの低姿勢でこちらを伺っている。何も悪いことをしていないのに、なぜか謝ってしまいたくなる。そう言えば昔話だと、「最高神を中心にすべての神々が全力で創世に協力した」とあった。その理由が「放っておけなかったから(意訳)」だった。当時は信じなかったけど、今なら信じられる。


「わかりました。いつ、その『いせかい』に行くのでしょうか」

「今からだ。では、その。頑張れ」


 え?と聞き返す間もなく、視界に光が満ちた。




 そして気づいたら、よくわからない室内にいた。白い壁、木のようで木ではない建材の床。用途不明な家具の数々。そして10歳前後の黒い髪をした少女。状況がわからずに立ち尽くしていると、こちらに気づいた少女が近付いてきた。


「クロムストック様ですね。私はこちらの世界での助力や助言を行う3級神のサテラです。菲才の身ではありますが、どうぞよろしくお願いします」

「ええ? あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 3級神と言えば最下級の神様の事だ。最下級と言っても神様だから、俺には文字通り天上の存在で、そんな人が頭を下げている現状が理解できない。困惑する俺にサテラさんはこの世界での話と今後の生活について教えてくれた。

 異世界転移の理由は「この世界が滅亡の危機にあるから」。この世界は「魔力がほとんどなくなった世界」で、「最高神以外がいない」「魔法もないし魔物もいない」「ジョブが無いのでみんな弱い」のだという。他にも「世界を100回滅ぼせる道具がある」「些細なことで戦争が起きている」などなどあり、この世界、もう滅んでいるんじゃないだろうかと俺は思った。俺は英雄でも何でもない底辺錬金術師だから無理だと言ったが、サテラさんが言うには俺はこの世界では英雄クラスの存在らしい。訳が分からない。


 とりあえず日課である『初心者シリーズ』を作ろう。初心者ライフポーション、初心者マナポーション、初心者スタミナポーション、初心者キュアポーションの4つだ。これらは草と水があれば作れる。どんな草でもいい。だから部屋にあった不思議な材質のバケツに水を入れ、部屋の外に出た。どうやら小さな屋敷だったようで、2階建ての建物に庭がついている。俺が住んでいた小屋に比べると良い待遇だと思う。俺は庭に生えている名前の知らない草を指定し、手当たり次第ポーションの材料にした。その結果、バケツ一杯の4種の『初心者シリーズ』を作ることができた。

 日課を終わらせた後、サテラさんから明日のことを話し合った。明日はサテラさんが勤めている職場で面接があるそうだ。職場の人たちは俺が『いせかいてんい』してきたことを知っているので、採用は確定らしい。なお、『いせかい』とは『異世界』、『いせかいてんい』は『異世界転移』だという事もその時に知った。と言うか神託の一種を使って様々知識を直接受け取った。神託って便利だ。



 翌日。


「採用」

「あ、はい」


 俺がこれから働くのは、栄養ドリンクの会社らしい。この世界におけるスタミナポーションの一種らしいけど、味の良さ以外は初級スタミナポーションよりも悪いらしい。試しに飲んでみたら、美味しかった。

 俺の仕事は各種ポーションの製造。それだけ。いつも通りだけど、いつもと違うのはノルマがあることだ。1日30リットル。職場の意地の悪い先輩が「やれるものならやってみろ」と笑ったので、会社の裏庭にある雑草とポーション用のバスタブを使い、各種ポーションを200リットルずつ作った。社員のみんなが「馬鹿な!?」「水で薄めただけだろ? なぁ、そうだと言ってくれよ!」「信じないぞ! 俺は信じないぞ! 化学は、まだ負けていない!」と大騒ぎしていた。俺は世界が変わると常識が変わるんだなぁと感心していた。

 『初心者シリーズ』はポーションに限らず、全生産系ジョブで作ることができる。簡単に、大量に作れる。その代わり低品質。それが『初心者シリーズ』だ。【初心者錬金術師】は初心者ポーションしか作れないジョブで、円熟した俺の世界では町の子供がお小遣いで買う、駄菓子と同じ扱いをされる最低価格の商品だ。だから、大量に作ることが出来て当たり前なのに。どうしてみんな驚いているのだろう。

 そして、サテラさん。どうしてあなたはそんな泣きそうな顔をして笑っているんですか。尋ねようかと思ったけど、かわいい女の子の泣き顔を前にして、何を言えばいいのかわからないので、ただ彼女を眺めていた。



 入社して、2週間が経過した。


「大変なことになった」

「そうなんですか」


 どうやら初心者ポーションは10倍に薄めても、この世界で最高級の栄養ドリンクと同じ効果が出ることが分かったそうだ。サテラさんの解説によると、【初心者錬金術師】が作る初心者ポーションは高品質で大量に作れるそうだ。たまに気休め程度のバフもつくそうだ。だけど、それは元の世界での話。この世界では俺のポーションは10倍に薄めても、栄養ドリンク1本分で1万円する高級品なのだとか。うん。訳が分からない。

 俺が入社初日に作った分が、試飲で配った人たちに知れ渡るまでが1週間。次の一週間で在庫切れになるまで発注が来たそうだ。社員のみんなは連日徹夜で、壊れたように笑いながら「1万円~、2万円~、3万円~」とか「これがあれば、俺はあの時、ヤクに手を出さなかったのに」とか「あいつらも、これを飲んだら、生きる希望が出てくるかな」とか闇が深そうなことばかりつぶやいたり叫んだりしていた。徹夜すると聞いたので社員用に各種ポーションを作って置いていたら、こうなった。俺のポーション、精神系の状態異常には効かないからなぁ。



 入社して、一月が経過した。


「サテラ様はすばらしい」

「あ、はい」


 サテラさんは3級神だ。信仰があれば、その分だけ奇跡を起こせる。サテラさんが付与した『素早さ小UP』『器用さ小UP』の加護により、従来の5倍の速度で仕事が出来るようになったそうだ。新商品のサテラドリンクは、作れば作る程売れる。需要と供給の都合を合わせるというサテラさんの案により、給料が3倍になったのに1週間の長期休暇が貰えたそうだ。社員はみんな、良い笑顔だ。「化学は負けていない。だが、サテラ様は素晴らしい」という声もある。この世界の常識ではカルト宗教になるけど、元の世界ではごく当たり前の事なので、2つの世界の常識がぶつかり合って頭を抱えている。

 今は月に各種サテラドリンクを1万本、供給している。ライフドリンクとキュアドリンクを1日3本飲めば、難病や重症患者が1週間で元気になるそうだ。スタミナドリンクとマナドリンクはブラック企業をホワイト企業に変える力を持っていた。

 なお、サテラドリンクには『最強サテラドリンク』を1本1万円で売っている。あまりに高いので『最強サテラドリンク』をさらに薄めた各種サテラドリンクを売り始めたのが、大繁盛の理由だ。5倍に薄めた『高級サテラドリンク』を1本2千円、10倍に薄めた『スーパーサテラドリンク』を1本千円、30倍に薄めた『みんなのサテラドリンク』を1本200円。何とびっくり、初心者ポーションを300倍に薄めたら、元の世界と同じくらいの値段になった。2つの世界の常識が殴り合いをしているので、俺は頭を抱えた。



 入社して、半年が経過した。


「サテラ様は救世主だ」

「ソウデスネー」


 技術の流出、盗難、脅しなど様々な事件があった。その全てをサテラさんは解決していった。サテラさんはこの世界に来る前提で様々な技術を身に着けた、2級神にもなれる実力のある神だったようだ。いつの間にかサテラさんは社長を含めた全員の心を掌握していて、サテラさんの言葉は無条件に従うようになっていた。うん、サテラ教だね。元の世界では神と人々の関係は加護を与える代わりに信仰を得る、というもの。給料を与える代わりに労力を得る会社の仕組みと同じだ。けど、今日もやっぱり2つの世界の常識が何度もクロスカウンターをぶつけ合っている。俺は頭が痛くなったので、初心者ライフポーションを飲んだ。痛みが引いたけど、悩みは晴れなかった。

 サテラさんの方針で、この国、日本にだけ本社と支社を置いている企業にはサテラドリンクを割引しているそうだ。どうしてそんなことをしているのかわからなかったけれど、「必要なことなのです」と微笑まれたので、気にしないことにした。改めてサテラさんは可愛いなと思った。



 入社して、1年が経過した。


「サテラ様は女神さまだ」

「ソーデスネー」


 1月前に、新種の肺炎が流行った。日本でも観光船が来て流行りそうになったけど、政府の方針で『最強サテラドリンク』を各種、乗員乗客全員分を提供した結果、最初は「税金の無駄遣い」「○○の件はどうした」などの批判が多かったけど、後に世界的に流行りだすと英断だと言われていった。ちなみに、サテラさんが政府に承認を求めた結果とも社内で噂されているけど、事実は知らない。あとサテラさんが女神なのはずっと前から知ってました、はい。

 いつからか、日本は神々に守られた国と噂されるようになっていた。サテラさんに守られているから間違っていないけど、ほかにも神が来ているのかなと聞いてみたら、「私が兼任しているものは多いです」とのこと。うん、よくわからないけど内緒らしい。あとサテラさん。最近、ちょっと距離が近くないですか。



 そして現在。入社から1年と数か月が経過している。


「サテラ様を崇めよ」

「それはいいことじゃないですかー、はい」


 たまに狂信的ともいえる発言があるけれど、概ね会社は平穏だ。敵対的買収も何のその。今や従業員10名の零細企業が僅か一年弱で中小企業と言えるレベルになっている。そして俺はサテラさんの加護を受けて、なんとびっくり。何度かレベルアップをしている。神への信仰と魔力の関係とかあるらしいんだけど、細かいことはよくわからない。【初級ポーション作成】の他に【サテラ神の加護】【品質向上(薬品)】が増えている。

 裏庭の雑草はライフポーションをぶちまけたら、1時間で青々と生い茂る。指定してポーションを作る。ポーションを運ぶ人が持っていく。その繰り返しだ。今では会社の敷地は入社時の10倍になっていて、ポーションの輸送は専用の大型トラックを使っている。大量の水を入れたそのトラックの傍で草を指定して、ポーションを作成する。すると大量の水が全て初心者ポーションになる。今はもう瓶に詰める作業は、他の会社に委託しているそうだ。盗難とか無いのだろうかと不思議に思ったけど、「大丈夫ですよ」とサテラさんが微笑んだので大丈夫なんだろう。


 そう言えば、最近はステータスを見ていなかったなぁ。新しいスキルは増えているかなと思って、ステータスを見たら驚いた。称号がついていた。


【薬神の代理者】


 何だか怖いので、詳細を見るのは別の日にしよう。そう決意して、今日の分のポーションを作り終わった俺は家に帰ることにした。


 関係ないけど、ここ最近のサテラさんは異常なほど、距離を詰めてきている。薄々感づいているけど、一線を越えようとしている。「今はまだいいですよ」とあっさり引き下がってくれるから良いけど、わかっている。その内、俺が我慢できなくなる。どうしてサテラさんが俺にここまで良くしてくれるのか。その理由を、俺はまだ知らなかった。





異世界無双っていいですよね。だから不遇な主人公に無双してもらいました(。。

なお、この物語はフィクションなので、現実のいかなる出来事とも無縁だとします(_’

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