~第二部 下層フリーター爆誕編~ 第20話 仕事人の一つの仕事
...お久しぶりです。3ヶ月も立ってしまいました。すみません。今後も不定期に更新致しますので、よろしくお願いいたします。
...とある花々が咲き誇る古い含蓄のある屋敷の庭園での出来事。
「...まさか、あの企業で大きな出世をした君が唐突にこんな寂れた家に住む寂しい老人の元に訪ねてくるなんてな。うちの卒業した弟子がいきなり、連絡を入れて、ここに来るとは思わなかったんだがな?」
「...師匠。私たちの事情は多くの人によって様々ありますが、私の場合は最近、下層地区で起きた例のコレの件についてです。」
この煌びやかな装飾が施された部屋や庭にある数多の花々が咲いている庭園にある部屋の一室である和室でとある男が目の前のソファに腰掛ける杖をもった男自身の師である老人の対面にある椅子に座り、報告を行っている。
今回の議題は、男が管理する下層地区の区画で起きたダンジョンが新しく出現した出来事が原因だ。あるときを境にダンジョンが下層地区の地下に出現し、そこに冒険者などの人が多数入り、軽いゴールドラッシュブームが起きようとしていた状態であった。
もちろん。この都市で生活を送る中で新規に出現したダンジョンは多くの意味を持つ。それは、富や古き世界から流れついた文明の名残、貴重な魔法の数々、様々なものがその中に存在し、掘り当てれば常人は一生食っていける財が成せる、と言われているものである。
そんな中で男は様々な団体から資金をかき集め、多くの企業は探検隊を作り、ダンジョン内を潜った際の現状の被害状況、予測出来うる対策などの今後の利益の相談を含め、男は自身の師である好々爺の老人を訪ねたのだった。
この部屋の一室である和室では、一人のスーツ姿でグラサンをかけている短めのカットが入った清潔そうな髪型をしている男が目の前にいる老人に対して、その言葉とともに、一つの写真を自身の懐から取り出し、老人のほうに向けて下にあるデスクに置いた。
「..ふむ?なるほど。最近、巷で話題の下層地区の工場爆発地点付近の最近生成されたダンジョンか。確かに外部にある企業が参入すると、厄介な案件だね?...でも、僕の元を訪ねたのは、その件だけではないだろう?」
...目の前にいる額に深みのある皺がある白髪白髭の老人はめんどくさそうに、少なくなってきた頭にある短めの髪を少しかくと、私に鋭い針のような質問を返した。
「...されども、このダンジョンには莫大な価値がある可能性が高いでしょう。前期先行部隊によると、中には仙境に非常に似通った建物が発見され、漂着した被造物の可能性があります。また、あの世界の複製品かもしれませんね。」
「..ほう?仙境ですか...、それは、はたまた奇妙なものですな..。...しかし、そんな興味深い発見があるとは...、いやはや、こちらも老いてからというもの、部屋にこもっていましてな。やはり、缶詰めのように部屋に閉じこもってばかりではいけませんな...。」
そう老人は、...ほっほっほ、と自身のアゴヒゲを軽くなでながら、その鋭い目がこちらを貫くような視線を感じ、軽い口調ではあるが、その口から発せられる言葉や所作に重厚なプレッシャーを感じさせるためにやっているのか、おそらく後者であろうが、こちらの肩辺りから重い圧力が背中にのしかかってくるのを感じていた...。
やはり、この人は弟子として共に行動していた時からも何も変化はなく、未だに現在も続いてある東方の呪術士の家の重鎮である、という重く苦しい雰囲気を感じる。
...そう、人知れず知れた伝説ではあるが、このご老人は現在で数十人いる調停者の中でも、"黎明"の名を冠する称号を持つ一人である重鎮の一人である。その名はとある界隈では有名ではあるが、現状、その名を口に出来うるものは限られている...。
..そんな和やかな口調とは裏腹に老人は目を鋭く、まるで猛禽類が獲物を見つけたかのような視線のまま、目の前にいる報告者であるグラサンの男に視線をやる。
..目の前に立つグラサンの男の空気の重圧感は一気に身体に襲い掛かり、思わず、男が膝を折り曲げそうになったが、それを表情と姿勢を崩さず、目の前にいる老人の目を真っすぐに合わせ、追加の報告を行う..。
「..さらには、このダンジョンでかつての前の文明の痕跡である研究棟と思われるものを複数発見。それに合わせて貴重な研究資料もいくつか散見された模様です。」
「...ほう..?それは何とも幸先の良い報告ですな。いやはや、仙境を見つけたのみならず、前の文明の貴重な技術の痕跡が見つかるなんて..。」
...素晴らしい成果ですな、と老人は頬を緩ませつつ、感嘆したかのように言葉を漏らした。しかし未だに猛禽類のような鋭い視線は緩めず、未だこちらに厳しい視線を送る。どうやら、この成果を告げる報告は後にした方が良かったらしい。...いや、さっさと冒険者等が行っているであろう議題より我々が求める本題に入れ、とのことなのだろう..。
...グラサンの男は部屋を包む重圧に耐えながらも、今回の報告のメインであるここにやってきた本来の目的の報告に入る。思えば最初からこの老人に誤魔化すことなど出来はしないのだ。故に話したくはないが、今回の問題点である話題に入った..。
..和室に入ったときから老人の傍に立っていた猫耳メイドAIの従者がこちらに視線をおくる。その目には静かにジジッ、という機械音が鳴り、丸い円盤に何らかの文字が浮かび上がり、その文字と円盤がグルグルと魔法陣のように回っている様子が観察できる...。
「...データ更新中。呪術士2級 暴虐のシキナ様の発言を分析。データバンク内の監視カメラネットワークの情報の更新中。...判定終わりました。シキナ様のご報告に偽りの情報はなく、悪意はありません。...よって、情報は正確であると判断されます。」
猫耳メイド型式神はそう言うと、口を閉じて老人のほうにくるりと向き、老人の返事を待った。その間に猫耳メイドの瞳の色は元の色合いに戻り、魔法陣らしきものはなくなっていた。
「...ふむ。その報告が確かなら吉報であるな。まさしく我らにとっても良い報告と言えよう。...しかし、此度の下層地区の事件に対する対応は...、」
老人は一拍置いて、口を開き、ここで言葉を一回区切り、息を少し深く吸い込み、自身の長い白髭を撫でながら、少し息を吐いて、改めて口を開いた。
「...はあ。少々、呪力を解放しただけでこの体たらくとは...。..我が弟子よ。最近、商売がいくらか上手くいっているようなのは師として嬉しきことなのだが...。」
目の前にいるその老人はそう言いつつ、目を閉じて、プレッシャーを増すようにこちらを刺すような視線を向けながら、言葉をつづけた。
「その代わりに術士の腕がなまっているのではないか?いや、今、お前の功績が上手く行ってはいるのは知ってはいるが、...ここ最近、物騒な事件が多いからのう。老いぼれは若い弟子が心配になってくるよ?」
'..これは昔のように、お前用に少し改良した稽古をつけないといけないかのう?'、と老人は懐かしそうに、いや、一瞬、目の鋭さが増して、臨海体勢の猛禽類のような印象を受けるような表情になったかと思うと、一瞬で元の穏やかな好々爺な顔つきに戻った。しかし、まだ目の鋭さは健在で先ほどよりも鋭くなったような印象になっているのが観察できた。
「..承知いたしました。それでは、ご報告が終わりましたので、私はこれで失礼いたします。...何かご用件があればまた、こちらに召喚してくだされば幸いです..。」
「...ふむ。久々にこちらこそ健在な様子な弟子の姿を見れて何よりじゃ。また、寂しい茶室ではあるが、これからも気軽に来てくれて構わん。..また有意義な話を話して欲しいのう...?」
..グラサンをかけた男はそう言い終えると、すぐさま老人のほうに会釈を行い、この和室を退出した..。
.....これまで、長く生きた調停者の中での重鎮とも称される人物の重圧とこの後に起こる後処理の問題に関することに頭を悩ませることも含めて男は胃と頭を痛めつつも...、これまで培った処世術に従い、かの老人の言葉に耳を傾けるしかできなかった。
バーに行く人々に交じってグラサンの男はカクテルを頼む。
「おっさん、マティーニ一つ。」
「お客さん、飲みすぎだよ。」
お酒の飲みすぎに注意しましょう。