~第二部 下層フリーター爆誕編~ 第11話 忘れられない現実と空虚な私
..二か月の期間、空いてしまい、すみません...。
小説には、没頭していると個人差で現実を忘れさせる魔力がある、と私は思っている...。ここまで生きてきた中で読書の時間を現実空間の中で多く取ってはいるが、その習慣はどうやら、この世界閉じられた固有の空間でも変わらないらしく、多くの時間をそこで過ごしてきた...。
..そこは多くの本棚に"ビッシリ"と見渡す限りの本が詰まっていた...。また床にも何冊もの本が詰まれており、何十もの階層に積もった本が陳列した状態であちらこちらに置かれているのが視認できる...。
そんな中でその本棚が置いてある真ん中に青い大きな水槽が鎮座し、その中には多種多様な魚たちが自然にいるような感じで警戒なく泳ぎ、まるで水族館の中にある書斎から水槽を眺めるような景観となっている...。
そんな中で真ん中にある腰掛け椅子に行儀よく背筋を伸ばし座りながら、片手に一冊の本を読んでいる少女がおり、ときおり、難しい顔をしながら、空いた片手でページをパラリ、パラリとめくる音が部屋にこだまする...。
また、頭上にある彼女の狐耳が時々ピクリと立ったかと思うと、すぐさまペタンと伏せてしまう様子だったり、腰にある太い白色の尻尾がブワッと逆立ったかと思うと、すぐ萎えたかのようにしょんぼり下に垂れてしまう様子も水槽から反射して見えている...。
...この青い水槽に反射して写るいかにも人ならざる狐耳少女こそ、今の私である犬山 恵なのだ...。
..いま、私は誰に対してこんな訳の分からない紹介をしているのだろう?そう思い、私は読んでいた本を片手で"パタンっ"と閉じて、ページをめくっていた片手でかけている眼鏡を外して、座っている椅子の横にある6段タワーになっている積まれている6冊分の本の表紙に置くと、すぐさま自身のこめかみをつまむような仕草をする...。
..こうすることで自身を落ち着かせようとしてみるが難しい魔導書を読んで疲れたのか、集中力が切れたのか、新しく本を読む気が起きない...。
...しかし、意外にも、この不可思議な電脳空間にある歴史書、魔導書が面白く、没頭出来るのだ...。
さて...、ここまで話してきたわけだが、ふと浮かんだ疑問で、この私自身もいつまで、こんな魔境の空間に漂っているのだか、と考えてみるのだが...、
「...やっぱり現実の家より、落ち着くわ...。」
そんな感じで、人間で言う仮想のような空間で何時間も過ごすのが私の日課だ...。前の20世紀頃の世代ではヘルメット式などで仮想空間に行くことが主流ではあるが、今回はそれとは別の技術で成立し、確立された別空間に存在しており、現在でも神々や妖が住まう"神魔ノ世界"で行き来が出来ている...。
自身の肉体情報を箱庭式電脳空間に送り込むことに適応する術式を確立しており、それを用いて、この閉じられた固有の空間を行き来している...。
..まあ、こんな事情はどうでもいいんだけどね...。そう思いながらも私は机の上にある一冊の本を開き、そこにある文面に目を通す...。
"~~あなたもこれで恋愛ゲーム方式で構築できる!?人間関係再構築計画書について~~"
"~~世界ノ料理本ノ歴史、詰め合わせ~~"
"~~苦痛ニヨル精神干渉、毒魔法ニツイテ~~"
...いかにもな3冊だ...。しかも、どこかで見た胡散臭い本のタイトルまでも混じっている...。
..正直、こんな本を読むくらいなら普段の私はお気に入りのjazzを聞いていた方が遥かにましな気がするが、私はそれを手にして、冊子を開き、ページに手をかけた...。
...気づいたら、40分経っていた...。
"ふむ"、と私はこの本について考え込む...。実に不思議な感覚だ...。こんな気持ちは10代の学生時代のころに深夜で明日も学校があるのにもかかわらず、当時お気に入りの漫画を20冊10往復で読み返したとき以来だ...。
特に、この"苦痛ニヨル精神干渉、毒魔法ニツイテ"と書かれたタイトルの一冊が面白く、いくつかの実践的な講座と具体例が多く資料が鑑賞できるのが実に良い..、と言いたいがグロイものも混じっていたので評価は微妙だ...。
漫画好きではあるが、グロに耐性は私にはない...。
また、私が特に目を引いたのが、"世界ノ料理本ノ歴史、詰め合わせ"が一番良かった...。
図書館評価は低いけどっっ!!
...昔、20世紀の普通の家庭で生まれた女子高生として生きていた"とある少女"はとある思いを胸に秘めていた..。
"..いつか、大人になったら、〇〇と一緒に世界を見て回るんだ!!"
..それはとある日常にあった幼い日の思い出、彼女が普通の家庭を持っていたころの懐かしき、とある少年である大切な幼馴染との約束...。そこには彼女たち家族と多くの友人との明るい笑い声が響きわたり、彼女を満たした...。
..しかし、これはあくまでも私の中に存在する記録上でのお話だ...。
今となっては遥か昔に存在した少女はもう存在しない...。いや、存在してはならないだろう...。
..でも、まあ、それはもう関係のない話だ...。私はそう溜息をつきながら、今となっては取り戻せない懐かしき記録に対して感じていた陰鬱とした考えを払いながら、次の本に目を向けていき、それを取ろうとしたが...、途中まで伸ばした手を引っ込めた...。
...はあ、もう嫌だ...。こんな気持ちで明日をズルズル引きづって何になるというのだ...。
母さんにも言われたけれども、あの20世紀に生活していた"私"はもう存在しておらず、"私"の中にいる記憶の中にいる"少女"はもう死んでいるのだそうだ...。
..そうなのだとしても、"私"にとっては宝物のような煌めく"記録"であり、"記憶"だ...。だから、混ざりものである私自身が別の視点で生き方を設計する必要がある...。
...この図書館の大きな深い海の中にいるかのような感覚が今や白紙となったかのような壊れたコップのような私を包む...。
..今となってはもう"私"はあの満たされたときの"私"ではない、という感覚と現在の"空虚な存在になってしまった自分"で揺れている...。
「..やめだわ...。段々と嫌な考えになってくるし、もっと楽しくなるようなことを考えよう..。」
..そうやって私は目を閉じて膝を自身の頬に寄せ、体育座りの形で微睡んだ...。
..だが、そんなときにドタドタと大きな足音が聞こえ、頭上にある狐の耳となった私の右片耳がピクリと揺れ、尻尾が"ブワッ!!"と逆立つのを感じる...。
"何だ?"と思い、片目を少し開けてこの空間に一つしかない出入口の扉の方を見ると、"ドタンッ!!"と出入口の扉がいきなり乱暴に勢いよく開かれた...。
「いや~~っ、ここまで来るの時間が滅茶苦茶かかったわ!!...っていうか、毎度のこと思うんだけど、落ち着くわっっ!!」
...そこには、見慣れた格好をした五月蠅い知り合いの姿があった...。
「...何の用よ..??今読書中なんだけど??」
そう私が苦々しく声を抑えつつ、疑問を口に出すと、明るいアイドル衣装を着た彼女は頭上にある小さい赤いリボンを飾った黒いハット帽子を白い綺麗な手袋を身に着けた右手で落とさないように押さえつつ、明るい満面の笑顔で答える...。
「マネージャーに追われてる!!匿って!!」
「帰れや...。」
..どうも今日は私にとって厄日らしい...。尻尾がしなしなとしおれていくのが青い水槽ごしに見なくても感じれた...。
今回も不定期になります...。