~第二部 下層フリーター爆誕編~ 第2話 ニートは辛い現実から走り出す
..逃げることは負けではない..。
..逃げることは負けではない..。
..逃げることは.....。
..ここで手記が途切れている..。
...駅のホームを抜けて、昔の従業員用と思わしき謎の扉を開けてから数分が経った頃、俺たちはランタンを片手に下層地区目指して探索を続けていた..。
俺たちがその先を目指すとして、ここまで来た道のりを考えてもまだ半分に行ってないらしいことを含めると、現状ニートである肉体にとってきつい連続でしかないが、俺はおっさんのあとに負けじとくっついて歩く...。
それしかないのもそうだが、俺にはもう居場所となる家がないのと、仕事を探さねば生きていけないからだ...。
「さて..、この場所はダンジョンのコア部分の迷宮化現象の影響が出てはいないが、慎重にもぐり、下層地区に向かわないとな...。」
前に歩いているおっさんはくたびれたように呟いた...。しかし、今まで歩いてきたせいか鍛え抜かれた彼の肉体にも限界が来ている様子だ...。その証拠に汗が彼の額からジワリと出ている...。
...確かにこれまできつい道のりだった..。今現在もきついと思いながらも、俺たちは下層地区に進んでいた...。
今までの経験から登山などの経験がないので体力が少ないが今はすごく後悔している...。
なぜ、こんなことになったのか??俺はただ単に生きていくために仕事を探していただけなのに...。
だが、俺は中層地区にいたためか下層地区での生き方を知らない...。この際にネットで書かれてあった下層地区のサバイバル技術を手にしようとする機会は今しかないのだ...。
だからこそ、俺はおっさんと下層地区に向かい、両親たちに知られぬよう死ぬ気で生きていく技術をい身に着けるしかない...。
..先ほどまでニート経歴が長い俺にとっては一番の苦行だ。だからこそ、俺は下層地区に行くべきなのだろう...。俺にとって新しく生まれ変われる環境はあそこしかないのだから...。
..ここまで歩いてきた道には、様々な植物が生えてきている...。青白く光っているキノコや緑色に発行するゼンマイのような植物、羽が生えたワームのような昆虫、三葉虫のような昆虫までもがこの通路には存在が視認できる...。
さらには、この通路が元々、湿りやすい場所のためか床の部分が浸水し、今は膝辺りまで水かさが来ている...。
ジャブジャブと足元から音が響き、その音がこの通路に反響する..。これも、ここが従業員が入るようの地下通路のためか、本当はあまり点検にしか通らなかった場所なのだろうことが分かる..。
..やっぱり、こんなバカげた思考を行っても意味はないと思いながらもこちらはネガティブに考えてしまう...。
そういえば、俺の同級生は今は大和帝国中に大きな影響がある学院である大和帝国政権直属の"大和帝国中央魔術学院"というそのまんまの名前だが凄い名前の学院で研究を行っているというのをニュースをネットで昔見たな...、とおぼろげに思い返した。
..なんでニート生活の中でこんな連絡が届いたのかというと、実にくだらない事情があるのだが、部屋の前で食事が置かれた際に、淡々と母が言った最近の現状報告だった...。
理由は俺に部屋を出て、いい加減に働いて欲しい、社会復帰してほしい、だから嫌がらせをする、という三拍子揃った正論である理由だ...。
ニートには辛い事情ではあるが、働いているやつからすれば、ニートは敵でこっちの事情なんて関係なく、ただ自分が辛いからそのつらさを味わえ、味わいたくないというのならば、〇ね、という人間失格宣告を告げ、いらない人材を切り離すということだ...。
昔、人間は働かなくて住む社会が来て、皆健康で健全な社会が来る、と偉い学者や政治家が言ったり、AIが大げさに宣言していたが、それは一部の上層階級にいる奴らだ...。
...格差社会の中で優れていない人材は一番、治安が悪くなっている地区や暗黒地区にいくのだ。人材の教育による格差もあり、上層にある恩恵が下層地区までは届かない...。
一部の中層地区には恩恵が届くが、他の中層地区に住む住民に関してはその恩恵が届かない...。
その恩恵を得るために下層地区や中層地区のほうから会社に入り、安定した地位を夢見て進む若者が会社に入るのだ..。
だが..、そのほとんどは企業社会特有の過酷な競争が原因で魔物に襲われ、亡くなったり、業績不振で会社内で処分される人間が多いのが現状だ...。
俺は早々に社会からドロップアウトしてニートになったが、これでも何度かバイトで経験を得ようとした...。
しかし、どのバイト候補も一度顔合わせしろだの、お前には無理だの、ニートと聞き、鼻で笑うやつが多く、しまいには説教し、放送禁止の罵詈雑言を吐き、電話を切る始末だ..。
確かにニートな俺ではあるが、一応人間なのだが?と疑問に思うが、社会はこうなのだ、と実感し、俺を受け入れる家族、会社や社会なんてあるわけないと事実を突きつけられ、俺は人生最大の絶望を味わった..。
おっさんもきっと同じ価値観なんだ、と確認し、俺はこういう扱いなんだと諦めたのも、これが原因だ。文句は垂れるが、意地でも着いていき、いつかアイツを半殺しにして殴り飛ばす...。
そう俺は心に誓いながら、この暗く水漏れしているジメジメした従業員用通路を歩く...。
目の前に羽が生えた発光型ワームが通りすぎ、少し驚いたが、いつ襲われても準備出来るようデバイス魔術の身体強化初級魔術をいつでも発動しとくよう体の信号操作魔術を行おうとする。
しかし、おっさんは俺がデバイス魔術を行うと分かったのか、手を俺の前に広げ、俺の襟首をいきなりつかんだ...。
「..なっ!何すんだよ!?」
俺はいきなりのことにパニックになり、焦った言葉が口から出てきた..。そんなことなど気に留めないふうに俺に対して冷めた視線でこう言い放った...。
「..ズブの素人がダンジョンで魔術をむやみに使うんじゃねえよ。この生物の中には細かな魔術操作を攻撃として受け取り、襲い掛かってくる奴らもいる..。だから、言い忘れてはいたが今は使うな...。」
そう言うと、彼はクルリと前を向き直り、淡々と作業するように前にズンズンと進んでいった...。
よく観察してみると、彼は片手に警棒らしき棒を持っており、それを"ブンッ!!"と横に振ると、俺の目の前にいた羽の生えたワームがいきなり潰れ、"ブジュッ!!"と音が鳴り響き、近くに緑色の体液と赤黒い外殻の破片がバラまかれる...。
その光景に驚いていたが、それを行った本人はズンズンと前に進んでいくので、俺は焦りながらも小走りで急いで彼の後に着いていく..。
しかし...。
「...んっ..?」
後ろからブーンという低い音とパチャパチャという誰かが移動しているような水音が近くで聞こえた...。
「..何だ..?他に誰かここに来ているのか...?」
そう俺は思いながら、後ろから聞こえてきた音に耳を澄ます...。
しかし...。
"ブーーーーンッ!!!"
"バチャッバチャバチャッッ!!!"
「ッッッ!!!」
"..ヤバい!!ヤバい!ヤバい!!!"
そう俺は後ろから急接近してきた存在に対して、人生の中ではないこれまでで感じたことがないデカい生命危機を感じた...。
俺は急いで走る準備をするためにデバイス魔術の使用を開始した...。
しかしながら、彼に対しておっさんが気付くことはない..。急いで前を見ると、彼の姿が見えないことに気づいた...。
「嘘だろっ!?」
思わず大声で言葉が出てしまう..。しかし、その声にどの位置にいるのか気づいたのか、どんどんこちらとの距離を詰めてきた。
急いで俺は足専用に対する身体強化用のデバイス魔術を発動し、走り出す...。
片足、片足に血流が急に回り、血圧が上がるのが感じられる。吐き気がくるが、何とかこらえて片足に魔素の流れを操作し、下半身から上半身に向かい、体の動きの速度を加速させる...。
「..クソッ!!」
そう言い放ち、走り出したキツイ身体で自身の後ろに向けて、視線を向ける。
そこには、銀色の光る身体を持つ流体のようなスライムみたいな生物と先ほどの光る羽つきワームが蒼白く光りながら数匹が大きな羽音をたてながら近づいてくる..。
俺は急いで前を振り向き、この状況を理不尽だと感じながら、涙を流しつつ走り続けた...。
途切れた記憶の中で僕は過去に目を背け逃げ出す...。
しかし、現実は早くも追いつき、僕を崖に追いやる...。
もう、暗闇に飛び出すしかない...。