~第一部 ニートな俺たち~ 第17話 ニート、逃亡する
今まで逃避した人生だった。会社から言われた仕事を辞めたことで今、人生の中で考える時間が出来た...。今までの思い出の中で幸せな時間は妹や祖父や世話をしてくれたケチな婆さんといたころの記憶だった。
しかし、今まで行ってきたことの中でこぼしてきたことがある...。今度こそはあんな悲劇をダメ人間でも繰り返してはいけない...。
そんなことを考えたとき、公園で話してきた青年が息を切らしながら路地裏に入ってくるのを見た...。
後ろからは何やら物騒な集団が武器を持ちながら走っている...。
そのとき、俺は立ち上がって、その青年がいるほうに先回りするため走り出した...。
...何もしてないのに命を狙われる気分は最悪と言った形だった...。
ハアハアッ...、と引き篭もりにとってはキツい走りを今行っている...。
施設の廊下を抜けた先には出口があり、非常用に点灯する蛍光灯が淡く白い光を放ちながら、前にある出口の扉を照らしている...。
しかし、相手は点灯した電球をボーガンの矢で割っていく...。
"プッシュ!"という音とともに風を切ってこちらを追いかけるように向かっている鉄の矢じりが光る矢を間一髪で3射分避けつつ、外に設置されている三角コーンなどの障害物を倒し、なんとか相手の進行方向を遅らせるように妨害しながら、走り抜けた...。
脇腹からはさっき射出された矢がかすめたのか、服が破れ、脇腹に切り傷とそこから流れる自身の血が確認出来た...。
「...クソッ..。」
俺はそう呟きながら、ふと部屋の中で行っていた魔術デバイスを起動すると、見慣れた青いデバイス画面にこう叫んだ。
「...スクロールに切り替えから、アタックモード解除、デバイス魔術其之一...、"コード・フレイム"アンド"パワーコード・ランナー・レベル2"!!」
そう青年が呟いた途端、少し離れたところからボウガンを構えていた一人の襲撃者の前方に赤い火の大玉が出現し、そのまま襲撃者は火だるまになった。
「グァァァ...!!」
火だるまになったボウガンを構えた襲撃者の一人は全身にまとった火を消すのに必死であり、その光景にお仲間の襲撃者も驚いたのか、持っていたボウガンを降ろし、たむろしている者、仲間についた火を消すのを試みる者、一瞬立ち止まり、ズボンに付いているポケットからこれまた旧世界の無線らしきものを取り出し、他の仲間に連絡をしているような者までがいた...。
「...クソッ!こいつ魔術師のなりじゃないのに、魔術を使ってきやがる...!!さてはお前、下級階層の人間ではないな!!」
「グアアァァァァッ...!!!アツいッ!!アツい!!...頼む!!助けてくれ!炎がまとわりついて....、、嫌だァァァァ...!!!!」
「...あの魔術使いはどこにいきやがった!?...いないだとッ??どういうことだ!?
...何?!走り方が同じなのに急に走るスピードが上がったのか、追いつけなかった...、だとッ??!」
...後ろから追う声が遠のきつつある距離まで走ったつもりではあるが、撒いただろうか...?、と思い、デバイス魔術の身体強化系用に使う魔力が切れた...。
クソッ...、まだまだ走らないといけないというのに体力増強と速度強化のデバイス魔術が切れたのが分かった...。
ハアッ、ハアッ、と息が切れる音が自身の口から洩れる...。流石に長い年数をニートしていたから、高校生並みにあった体力がもうなくなっている...。
これが年を取る、ということか...、と今更、しょうもない疑問を考えながらも、俺は疲労してシビレている足を引きづりながらも暗い路地を抜けようと歩き始めた...。
追ってきている奴らの声も段々小さくなってきている...。諦めて帰ったか、それとも...。
そう思い返しながら、デバイス魔術を使用する魔力を元に充填するために、後どれくらい時間を稼げば充填出来るかを焦りながら考える...。
しかし、今のところ、自身の体力と並行して考えると、かなり多く時間を割くことが容易に想像できる。なんせ、今までニートで外にはほとんど、コンビニでゲーム課金を補充するときにしかできてない...。また、不思議なことにこんな状況になっても生存をあきらめ、殺されないように逃げ回ろうとする自分自身に今更ながら私事ながら驚きが隠せない...。
「...こんなクズ人間になっても死を望まない自分がいるのは今更ながら驚きだな...。」
そう、つぶやきながら、俺は何とか逃げ回れる経路がないか、道を探索する...。
見たところ、自分がいま立っているところは寂れたゴーストタウンにようだ...。正直、絶望感しかわいてこない...。
さて、どうしようか、と次の道を探して、ゴーストタウンの隅の路地を覗いた際、奴らの声が後ろのほうから聞こえたため、前に進みだした...。
足を一歩踏み出した、その時...。
"カチャッ...。"
背後から音がした瞬間、ゾッ、と死ぬかもしれないという思いと時がまるで止まったかのような感覚が生じた...。そのときに胸中に"もうダメかもしれない..."という思いが駆け抜け、次の衝撃に備えるようゆっくりと目を閉じた...。
"ドンッッッ‼" 「グァッ!!」
突然の衝撃音と共に背後から苦痛を訴えるような悲鳴が聞こえた...。それと共に...。
「こっちだ...‼」
と、大きな声が背後から聞こえたと思うと同時にいきなり右の手をつかまれて、その手を引っ張られ、その人物と共に走り出した...。
...正直、体力が切れて走れないはずなのだが、手が勢いよく引っ張られていくおかげか、こっちも走り出すほか選択肢はなく、気づけば走っていた...。
...10分後....
「..グハッ..、ゼエッ..、ハアッ...」
...ここまで走ったのは中学生初めの体育の講義以来だ。しかし、なんでこんな命を狙うような犯罪者どもに追われなきゃいないのか...?いや、正直、この世の情勢を電子ネット掲示板である情報を家に追い出される前に確認しておいてよかったと感じた...。
「...ゼエッ、グッ.....、...ここまで行けば追ってこれないな...?おい、ジャージの兄ちゃん、さっきぶりだな...。」
先ほど右手を握っていた男と思われる聞き覚えのある声が荒い息遣いを整えながら言った...。死にそうな場面を救ってくれた恩人である男に顔を向けると...。
「...やっぱり、あんただったか...。」
そこにいたのは、昨日の公園で会った白髪交じりの社会の荒波による影響で辞職に追い込まれたおっさんだった...。
逃避劇、ニート、おっさん、どこに逃げる?