第一部 ニートな俺たち 第13話 銃口を突き付けた先には....
....隷属を受けた印を持つ俺たちは監獄の中で働く蟻に過ぎず、蟻の一匹が死ねば、また新しい蟻が誕生して働く、それの繰り返しだ...。死ぬ原因なんて、こんな監獄じゃ無数の可能性がある...。例えば、病死、餓死、多大な肉体ストレスによる過労死etc..などなど、様々なものがあるが、ここには看守もいるので、看守によるいじめももちろんある...。まあ、殺されてもおかしくない状況なのには変わりないよ。ここでは飯は少ないし、基本奪い合いだからね...。君も気をつけろよ...。最古参である君もね...。
......とある刑務所内である男が存在することを知っているかい?
なあに、ただの噂話、都市伝説の話さ....。...んっ?怖い話かって?いやいや、確かに怖い話っちゃ怖い話かもしれないが....、そこまで怖い話ではないよ....。大丈夫だって!なんせ、安心安全のAランクの監獄にソイツはぶち込まれているかな...。早々出ては来れないさ....。
まあ...、なにが怖いかというとな...。ソイツ長生きなんだよ....。
...なっ?なにが怖い話なのかな...?、って思うだろ?....それがよう...。
“ソイツいつから生きているのか分からないんだわ....。聞いたところによると、1000年間くらいは生きているらしいぜ.....。”
ふと、耳を澄ましたら、そんなたあいもない噂が風に乗って聞こえてきた。
.....この人生はいつまで続くのか、とふと思ったことがある。もううんざりだと思ったことも、何度もあった....。しかし、この肉体は何度も焼かれようが、吹き飛ぼうが、撃ち抜かれようが、血をいくら流そうが、けっして死にはしない.....。
ジャラリッッ...、ジャラリッッ....、ジャラリッッッ......!!!!
......鉄製の錆びた鎖を引きずる音が俺の付近から聞こえる.....。無理もない......。その鎖は自分についている鎖なのだから......。
ジャラリッッ...、ジャラリッッ....、ジャラリッッッ......!!!
足元には鎖から錘に向けて繋がっている.....。いわゆる足枷である.....。この20世紀から結構時代が経ったというのに対して、随分と古い時代のものを付けられたな.....、と内心、一瞬思ったが、黙って俺は暗い石造りの通路を裸足でヒタッヒタッと歩いていく.....。道のりは長いが自分の部屋の場所に着くのはもう少しだ...。
....しかし、なぜ、この行動を何回も繰り返さなければならないのだろうか.....?こんな老いぼれに対して、足枷を付けたうえに、石造りの暗く、じめじめした湿った生暖かく、鉄臭いにおいと生ごみの臭いが充満する気持ちが悪い空間が広がっている石造りの建物の中を歩かされているようだ......。.....実際、俺がいるこの一室のフロアは、嫌な臭いが立ち込める囚人にとってもキツイ収容部屋らしい....。らしい、と言うのは、俺が今、収容している部屋を監視していた看守に聞いたからだ.....。
今は隣で何食わぬ顔で警棒を右腕でもち、たまにその警棒を別の手で持ったり、手持無沙汰にしたりしながら、暢気に口笛を吹き鳴らし、大股で歩いている......。
偶に警棒片手にパンパンッともうひとつ空いた手を警棒の頭で軽く2回叩き、にやけた嫌な目線で俺をチラリッと見たと思えば、両頬の表情筋を吊り上げながら、
“今すぐにここでとどめを刺すほど殴ってみようか?”と低い声で言い放ってきた......。
俺には、その声が聞こえていたが、それに相手は“無視か.....、もう何年もここにいるが、俺の言葉を無視したのはお前が初めてだよ~~”とうざいような媚びたような馴れ馴れしい声を出してきたかと思えば、いきなり腹の下部のあたりに衝撃を喰らった......。
ドサリッッ!!、気づいたら、自分の身体は倒れていた。下腹部がジンジン痛むっっっ.......!?
アハハハハッッッ!!........看守の汚い笑い声が建物中に響き渡る。
.......ほんとうに飽きずに毎回やるよな、と思いながらも俺はググっと倒れたところから顔を上げて、下からこのアホなことをやらかしてくれた看守を睨みつけた。
「・・・本当に弱いな...。弱い!弱い!弱い!弱い!よっわ~~~~~~~~~~~~いっっっっっ!!!!!まさしく地を這うがゴミ虫ごとく、すっごっっっ~~~~~~~~~~くっっっっっ!!!!よわっッッッ!!!!ハアァっ~~~~残っ念だぜッッ!!!この刑務所に赴任してきたときには、スゲエッッ~~~、強力な兵器が囚人として捕まっているからってッッ!!聞いてきたってえのによお~~~~~ッッッ!!!!楽しみに....,
楽しみに....、してたのによお~~~ッ!!どうやって虐めてやるかを楽しみにッッッ!してたのによお~~~~ッ!!!まさか.....、こんなぼろ布被ったかび臭のする薄汚れたおっさんがッッッ!!!!!まさかの兵器だとはなあ.........ッッッ!!!!分かんなかったぜッッッ!!!!!」
そうやって、気持ちの悪い笑顔を浮かびあげながら、俺が睨みつけていた看守は俺の臀部、腹部あたりを強く蹴ってきた。
「・・・・・・・・・グッッ!!!」
ゴスッッ!!!
「まさか....、」
ドスッッ!!!
「グ八ッッッ!!!」
「おっッッ?!効いたかッッ!!今の音の感じはッ!」
ドスッッ!!ゴスッッ!!ドカッッ!!!
「・・・・・・・・・・・~~~っっっ!!!」
俺はなんとか黙って看守からの攻撃の嵐を耐え抜こうとした.....。正直慣れていたということもあって、ダメージは幸い少ない.....。痛い物は痛いが.....ッ!!!
「...チッッ!!こんなことだったら、看守を辞めた方がましだったぜ....‼せっかく虐めがいのある奴隷がいるかと思えば、こんな汚いおっさんだとは思わなかったがなっっ.....!!!あ~っあ!!どうせだったなのなら可愛いっ~~~~~~い!!!美っしょっっ~~~~~~~~~~うじょっっっっっ、を、虐めたかったなあっっっっっ!!!!」
と気持ち悪く顔を歪めながら大口を開けて看守は目の前っでゲラゲラっと大笑いした後、俺に近づき、腹部をもう一回蹴った。
「.....グッ..!!]
....俺は痛みを堪えてもぞもぞと腹を守るように動き、防御するような姿勢を取った。看守はもう俺に興味をなくしたのか、その場でゲラゲラ笑いながら立っている。そして、俺の目の前で親指を指差して、腹を捩れさせながら笑っている....。
....そこまで笑って看守の仕事が務まるのか...?と一瞬疑問に思ったが、俺はとある言葉をやつに聞こえないような小さい声で唱えると、ゆっくりと奴を見上げながら、立ち上がった...。
...無論、奴の笑い声も止まっている..。さてと、あと10秒だ...。
「....まったく、本当に辺鄙なところに来たぜ...。飯はまずいし、囚人までこれだ...。」
6秒前...。
「まったく、新しいおもちゃでもいないもんかね~~。」
3秒前....。
「まあ...、さあてと、もう一回、囚人を...、グッッ!??」
バキッ!!
看守がのけぞる。既に看守の腕が変な方向に曲がっていた。また、頭からは血が出ている。
「...グエッ!?ゴバッッッ!!ッッブボアァッッッ!!?」
ボゴッ!!ボゴボコッッ!!ベキッ!!ベキベキベキッッッ!!!ドチャッッッ!!ベチャッ!!
看守の頭が膨らみ始めた....。既に右上にある右頭部分が変形をしていて、赤ピンク色の肉がはみ出ている。さらに“ボゴッ!!ベキッ!!”という音が看守の身体からした....。看守の身体が面白い形で変形を始めている...。既に右頭部分にあった目玉と右耳が吹っ飛んでいるのにもかかわらず、左腕からもピンク色の肉が徐々に肥大化し、今にも弾けそうになっていた....。
...既に看守の目は白目を向いていて、失神している様子が傍目から見ると分かった....。また、看守の右足が徐々に外側に“ギリギリッ”と少しずつだが曲がっているのが見えた......。
「....グッビャァァァァッ......!!!!!!!]
......今、左上半分の顔が少し膨れ上がり、ピンク色の肉片へと変わった...。しかし、限界が来たのか、はじけ飛び、ピンク色の肉片と血液が飛び散り、壁と床に“ベッチャリ”と付着した....。
ボキッ!ブチッ!!バキバキバキバキッ!!!ブチッ!ボンッ!!バキッ!!グチュッ!ブチッ!グチュッ!!ベチャッ!
「....グッビュッッ、アァァァァァァ.....‼‼」
看守の悲鳴が更に挙がる....。右腕の肩部分からピンク色の肉がコブとして膨れ上がり、15mmくらい膨れた後、いきなりはじけ飛んだ....。右肩部分の半分と共に右腕が吹っ飛んでいった....。
次に体躯としては痩躯であった腹部分が急激に膨らみ、ピンク色の肉片が肌色の皮部分から出てきた大きな風船みたいになり、失神していた白目がキョロキョロと黒目と白目を交互に行き来しながら、口から白い泡を吹いている...。
....肥大化した上半身がぐらぐらと揺れている。下半身はそれを支えるためになんとか突っ立ているように見えるが、右足が既に変な方向に曲がっており、尻側に前足が付いている状況となっている....。ギリギリッ、と音が鳴る...。
...看守の全身が“ピクピク”と痙攣しているのが見える....。そのとき、看守のズボンの銃ホルダーから、拳銃がポロッと落ちてきた....。俺はその光景を見ながら苦し気に口を開いた....。
「........はあ....、まだこれは使いこなせないか....。しかし...、とてもグロテスクなもんが出来ちまったな....。」
...俺はそう呟きつつ、看守が痙攣している間に落とした拳銃をゆっくりとした動作で拾い、しっかりと標的に狙いを定める.....。
「........まあ、まだ若い者を殺すことに抵抗はあるが、.....仕方のないことだと諦めてくれ.....。恨むんじゃねえぞ.....。南無三!!」
......俺は拳銃を強く両手で握り、迷うことなく引き金を引いた......。
“バンッ!!”
.....どこかで“カチリッ”と時計の針が動くような音がした.......。
....事実、俺はくだらない時間に人生を注いでいた...。その結果、こんなことになっちまったわけで、今更、悪びれることはするつもりはなし、今更、家族の顔を見るつもりはない...。
.........もう、そんな時間すら過ぎ去ってしまったのだから...。