アイリ、求婚される
───ぱちっ
目を覚ますとベッドで、非常ににこやかな黒髪イケメンの顔があった。
「よかった! 目が覚めた! 気分はどうかな?
──いきなり召喚してしまって、申し訳ない……!」
ベルナルディ王国王カミーユ・バジル・ベルナルドと名乗る黒髪イケメン。
隣に控えるのが、側近エミール、神殿長アルベール、宰相のクロヴィス、ベルチェ家執事のセドリック……というらしい。
国王陛下に紹介された順に男たちを見る。
みなさん、なかなかの顔面偏差値の高さ……つまり、イケメン!!
「みなさん、初めまして。──と言っても、特に陛下は夢で何度か見た気がしますので……初めてな気はしないのですが。アイリ・カゴハラと申します」
とりあえず、挨拶してみた。まだ夢かもしれないし。
今まで夢の中でアイリーンさんから、記憶と光の精霊の加護をもらったことを伝えると、男たち、特にベルチェ家の当主クロヴィスさんは涙ぐんだ。
「そうか……あの子はあなたを助けようと頑張ったんだね……」
アイリーンさんが亡くなったこと──仮死の魔法で肉体を状態保存していることを知っているのは、ここにいるメンバーと、執事のセドリック、アイリーン付きの侍女エミリーのみ、なのだそうだ。
そして、私はやはりアイリーンとしてベルチェ家で過ごしていくことになりそうだ。
娘を亡くしたというのに、娘の体に入る存在を見て……皆さんは複雑な気持ちにならないのだろうか? なんだか心配。
そこで、ふと、黒髪イケメンをもう一度見て気がついた。
そういえば、あれだけ纏わりついていた悪霊たちがいない……。
「──陛下、一つ伺っても宜しいでしょうか?」
黒髪イケメンは何故か満面の笑みでこちらを見た。なになに? と、まるで犬のよう。
霊のことを聞くと、黒髪イケメンは爛々と目を輝かせた。
「そうなのだ!! これもアイリ様のおかげなのだ!
君が気を失っている時、いきなり君からきらきらと光が溢れて、長年つきまとわれていた悪霊が居なくなったんだ!!」
黒髪イケメンは満面の笑みで手を握ってくる。
途中からくだけた感じになるほど、黒髪イケメンは興奮しているみたいだ。どうやら本当に霊につきまとわれる体質らしい。
「本当に、本当に感謝している!!!! ずっと死霊につきまとわれて諦めていたのに……! こんなに体が軽やかで、気分がスッキリとするなんて……! 感謝してもしきれない……!
僕とずっと、ずっと一緒にいてほしい!」
「──とはいえ、僕はアイリ様のことを、15年ずっと視ていたけど、アイリ様は僕のこと知らないからね! これから僕のことをいっぱい知ってもらって、仲良くなれたら嬉しいと思う!」
──なるほど、なるほど……って、光!! アイリーンさん!! 早速、力が役に立ったみたいですよ!
というかさ。これ!! 冷静になると、なかなか酷い内容だね。
『ずっと15年ストーキングしてて、僕は君のこと知ってるから僕のことも知って! そんで仲良くなろ! ずっと一緒にいよ!』
……ってなんだそりゃぁぁぁぁ! いきなり知らない所に勝手に召喚された挙句、ストーカーからのプロポーズって!!!!
「……陛下、毎日会われるのでしたら、いっそのこと……婚約してはいかがですか?」
──え、エミールさん……?
「まぁ、父としては複雑ですが。アイリーンも陛下や国のお役に立ちたいと常日頃言っておりましたし。いいんじゃないですか?」
──え、えっ……クロヴィスさん……!?
「そうですね、どうせ放っておくと "見守り" という名の監視をするでしょうし。毎日、見守りの為に神殿に来られるのも迷…ゴホン、仕事の停滞に繋がりますしねぇ……」
遠い目をした神殿長さんと、執事さんも頷く。
──陛下のしっぽが……ブンブンと揺れている!
「そうだな!!!! それがいいな!!
ずっと国に仕えてくれているベルチェ家の娘、能力的にも相応しい者との婚約なら、誰も文句無いだろう!!」
「アイリ様! 僕と結婚してください!!!!」
うちにいたコロちゃんを出してみました。
コロちゃんは、エサのジャーキーを出すと、それはそれは嬉しそうにしっぽをちぎれんばかりに振る子でした。