アイリ、浄化について考える②
───アイリーンの私室
「リーニャ! そういえば、日中はどこに行っていたの?」
日中に 『用事がある』 と言って、どこかに行っていたリーニャ。どこに行っていたのだろう??
湯浴みと保湿や着替えを終えた後に、リビングのソファーに座りリーニャを愛でていた。
エミリーにも座るように促し、一段落つくと、リーニャは教えてくれた。
「先程の食事の間で話していた、 "浄化の件" にも関することで、精霊王様に面会に行っておりましたの。光の精霊となったことで、ルミナスとしての役割も果たさねばなりませんから」
リーニャは続けた。
「精霊となってからの二年間、北方の国々は長雨や降雪による農作物の不作等で飢饉が起き死者が多いのです。
本来は、死霊管理をする者がおり、死者の魂をこの世に残すか残さないかを決めているのですが……
あまりにも多く手が回らないと、死霊や悪霊がすり抜けて、この国にも流れ着いてしまうのです」
「流れた結果が、陛下にまとわりつく霊たちなのね?」
リーニャはこくん、と頷いた。
「精霊王様は現状を憂いています。
姿や名のある精霊は力があり大丈夫ですが、生まれたて弱い精霊たちは精霊となる前に消えてしまいます。
これが続くと、精霊と死霊のバランスが崩れてしまいます。精霊の弱体化は、この国の生命力に関わるのです」
「──死霊や悪霊が多くなると、精霊たちは居心地が悪くなって力が弱まるんだよね? だから、リーニャは、 『精霊たちが弱まっている』 って言ったのね……」
──なるほど。さすがに、飢饉や災害時は溢れてしまうのね。大地震の時と同じか……
それに、監視していたあの子たちよりも、小さな弱い精霊の卵ちゃんたちは死んでしまう、ってことか。
「──私が元いた世界ではね、悪霊のような、何か良くないものが入ってこれないように "結界" っていう物が効くって言われているの」
「結界……?」
「結界は、目には見えないのだけど、何か点と点を繋ぐイメージで囲うことで守ってくれる物。
私の家は、王城と同じで川に囲まれていて、死霊が寄ってきてしまうから結界を張っていたの。──この国を覆うような結界が張れたら、他の国からは入ってこれないよね?」
リーニャは顔を輝かせた。
「お兄様と精霊王にそれぞれ相談してみましょう!」
「──リーニャ、私、さっき考えたことがあってね?
さっき言った、生命力のあるもの、花や果樹を積極的に植えて "緑化政策" を行うこと」
「そして、王城の周りを流れる水路の所々に魔法を掛けて、浄化の力を持つ水 "浄水" や "聖水" とでも言うのかな? それを作り出し、水が循環して水路は澱みなく流れるように巡らせる。そしたら、その水路が結界の働きをすると思うの。これは "浄化政策" 」
リーニャとエミリーは顔を輝かせている。
「──普通の人には、魔力は見えない。ということは、私やリーニャが水路の所々に光の魔法や水の魔法を掛けても見えないのよね?
出来れば魔法が持続するように魔道具を水路に所々に設置できたらいいと思うの」
リーニャは満足そうに頷いた。
そして、ずっと私たちの会話を聞いていたエミリーが口を開いた。
「──あの、国を囲うように流れている川にも、所々に小屋を作り、浄化の魔道具を置いてはどうでしょうか?
表向きは、川の見張り小屋ということにすれば目立ちませんし。魔道具自体に結界や魔法を掛けておくといいかもしれません。
適度に森から間引いた木を有効活用して、 "浄化施設" として小屋を作れば無駄にならないですし。それぞれの小屋に小屋番を付けることで、雇用にも繋がります」
───浄水施設! 悪霊浄化施設!
これなら、光魔法の使い手が目立たずに済む! 私とリーニャが大変だけどっ!
「二人とも一緒に考えてくれてありがとう。差し出がましいかもしれないけれど、陛下に相談してみるね!」
エミリーに便箋を頼むと、リーニャとエミリーと話し合った "緑化政策" と "浄化政策" の案を書き込んでいった。
「──ふぅ。陛下の元に届いてね」
陛下の所に届くことを願うと、手紙はすっと消えた。