SIDE:アルベール─犬は鞭さばきに震える─
カミーユおさぼり回
カミーユと側近エミールと神殿長アルベールの小話
───王城内神殿 神殿長執務室
「──アイリは強くて可愛い。こんなに強い令嬢はこの国には居ないだろうね……!」
カミーユは魔道鏡で鍛錬をするアイリ様を視ていた。
「……カミーユ、何でここにいるんだ? エミールはどうした」
「あ、エミール? 一生懸命仕事してたから、そっと出てきた!」
──こいつは……また撒いて来たのかよ……
「アイリをまだ監視してるのバレたら怒られる。既に、ストーカーが聖女様にプロポーズなんて頭イカれてる(意訳)って言われたし? キレた時のエミールの電撃痛いんだよね〜」
「……」
「──だって、精霊たちがさぁ、 『アイリが強い! 縛られてるけど強い!』 って実況して教えてくれるんだよ? 縛られてるアイリなんて! 見ないわけにはいかないよね」
「──精霊たち……っ」
「それに……僕が精霊に頼んだわけではなく、勝手に見させられてるから、監視じゃないし? それにここ私室じゃないし、アルの執務室だからOK!」
このバカに、どこから突っ込んでいいのか悩んだ。
──エミール……お前、よくこんな奴の側近やってるよな……。
俺には無理だ。殺意が湧く。
「いや〜可愛い〜鞭が似合う〜! 見てよアル! この鞭さばき! 可愛くて震える〜! アイリになら鞭で叩かれてもいい!」
「あ〜こんな可愛く戦うアイリを生で見られるなんて、精霊たち羨ましい……なんなら土人形でもいい! 俺と交換してくれ〜〜〜!!!!」
──アイリ様とエミリー?
動く的をご所望でしたら、今すぐこいつを縛り付けて鞭で躾けてやって下さい。
きっと喜んで "的" になることでしょう。
「──そんなに縛られたいのでしたら、縛って差し上げますよ」
いつの間にかカミーユの背後には、にっこりと微笑むエミールが立っていた。
「アイリ様の所に転移で送って差し上げます。土人形の代わりに、仕事をしないお前に鞭で気合いを入れてもらいましょう」
「あああああ、エミール!? もう来たのか!? 待って、今ものすごくいいとこっ……」
「それ以上視るなら、魔道鏡ぶっ壊しますけど。宜しいですかぁ?」
縋るような眼差しで懇願するカミーユに、エミールは冷たい視線で言い放った。
やべぇ、エミール超キレてる。
「──それはダメ。仕事します……」
渋々といった表情でカミーユは、執務室に戻る準備をする。
「せっっっっかく、人が陛下のことを思って、例の魔道具を頑張って製作して、情報網の構築と設定をしましたのに。
──あとは使用者認定のみですから、今夜か明日の昼あたりにでもアイリ様にお渡しのついでに会うことを許そうと思っておりましたのに」
「──え、行く行く! やるやる!」
「もうダメです。陛下のような、仕事を抜け出し女性を監視するような男には許しません。先日のこともありますし。一応、婚約前ですからね? アイリ様の身をお守りしなければ!」
「この間のは健全なお茶会だったって〜! まだ何もしてない!!!! 信じて、エミール!!!!」
キャンキャン喚く犬を捕獲したエミールは、俺の執務机の上に六つのブローチを差し出した。
「アルベール、これをアイリ様とベルチェ殿と侍女とリーニャ様に渡して使用者認定をしてもらってくれないか?
使用者認定をした後は、魔力を流せば情報を共有できるようになっているはずだ。能力確認の項とスケジュール共有の項、連絡の項に分かれている。もし良ければ今、試してみてほしい」
六つ渡されたものは、全てデザインの違うブローチだった。
リーニャ用に小さなブローチもあった。
自分用に男性向けのデザインのブローチを一つ取り、飾りの宝石の部分に血を一滴落とし魔力を注いだ。
──ふむ、分かりやすくまとめてある。情報共有と予定共有、連絡がこれ一つでできるのはありがたい。
「──さすがだ、エミール。仕事が早いな。
アイリ様の能力別に出来事が書いてあり、一目瞭然だ。新しく能力が分かり次第、書き込んでいくことで "聖女様の記録" になるのはいい。アイリ様に関するスケジュールの共有により、アルノー殿も警護がしやすくなるだろう。他の皆には今晩渡しておく」
「他者が使おうと魔力を流すと、情報網に入ることも出来ないが、確実に情報を漏洩させないために割れるようになっている。
こまめに書き込み、情報共有することがアイリ様を守ることに繋がる。特にアイリ様の侍女は常に一緒にいるから、伝えてくれれば助かる。
──若干一名、アイリ様のスケジュール共有を悪用しかねない奴がいるが。それはこちらで極力抑える」
──たしかに。こいつなら悪用しかねない。
「承知した。──で、申し訳ないんだが、そこの犬にさっさと首輪を繋いでもらえないか? 仕事が進まん。」
「度々すまないな。またうちの犬が邪魔したな! 逃げ出さないように犬小屋にしっかりと繋いでおくよ。」
エミールが笑顔でそう言うと、カミーユはずるずると引きずられるように執務室へと戻っていった。
─── 一応、やればできる奴なんだけどなぁ。
鍛錬くらいだな。あいつのかっこいい所……!
カミーユの一日
朝は鍛錬、午前は執務、午後も執務、夜は鍛錬。
たまにサボる。いや割とサボる。エミールを撒くのも趣味の一つ。