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SIDE:アイリーン─仮死の魔法─

読まなくても大丈夫。人物説明にざっくり書いてます。

 光の精霊となるまで(アイリーン視点)


 

 ──2年前 冬


 どんよりとした灰色の雲が覆う寒い冬の日、私は16年という短い人生を閉じようとしていた。


 神殿の寝台に横たわる私の周りには、ベルナルディ王国王エルネスト様、ベルナルディ王国宰相であり父クロヴィス、ベルナルディ王国王太子であり占術家のカミーユ様、神殿長が寄り添っていた。


 「──アイリーン……すまなんだ。国の為、カミーユの為とはいえ、まだまだ若いおぬしに短い生涯を閉じさせてしまうとは……クロヴィスにもすまない。儂に力がもっとあれば……!」


 陛下は項垂れた。大きかった王の姿は、今はひどく小さく見えた。


 「父上のせいではありません。私が占術で自らの運命を知ってしまっていたこと……アイリーン嬢に頼まれたとはいえ、アイリーン嬢の運命も占ってしまったこと。全ては私の責任なのです。

 ──アイリーン嬢、本当にすまない。助けることが出来なかった……」


 澄んだ黄土色の瞳を伏せ、王太子殿下は力なく眉を下げる。



 「陛下、王太子殿下、どうかお顔を上げて下さいませ……! 私はこの苦しみから解放されるのだと思うと、嬉しいのですよ」


 ──これから死ぬのだというのに、不思議と気持ちは弾む。やっと楽になれるのだから。



 母に似て、生まれつき霊力の強かった私は精霊、死霊問わず霊に好かれた。

 それでも、母が生きていた頃は、母の方が霊力が強かったために、母が自分の分も霊を受けて守ってくれていたのだろう。


 母が数年前に亡くなってからは、自分にまとわりつく重い空気に耐えられずにいた。

 成長に伴い増える霊力と、それに引き寄せられるものに耐えられず、コントロールを失っていたのだ。

 

 体が言うことを聞かず、徐々に衰弱していくのを感じていた。

 ──本当は少しだけ怖かった。私も母上のようになってしまうのだろうか、と。



 そんな時、占術の得意な王太子殿下に頼み、自らの未来を視てもらったのはちょっとした希望からだった。何か出来ることがあるかもしれない、と。


 しかし、現実というのは残酷で、異世界の女の子が王太子殿下の運命の人であり、国にとって聖女となりえる存在であること。

 その魂の器として、霊力の高い私の体が最適だという結果が告げられたのだった。


 王太子殿下は、魔力、霊力がどちらも強く、彼の占術は非常によく当たると知っていた。だから、割とすんなりと受け入れることができた。


 そもそも、ベルナルディ王国の宰相の娘、ベルチェ公爵家の者として、国に貢献するということは生まれつき刻まれた役目ですから。


 

 「陛下、王太子殿下……私の体が国の役に立ちますなら、ベルチェ家の者としては本望ですの。まぁ、死ぬのは少し怖くもありますが。

 母上がお亡くなりになってから、私の精神と体のバランスが崩れてきていることは分かっておりましたし」


 ──重い空気を払うように、精一杯、微笑んだ。


 「ですから、こう言ってはなんですが……! 占いにより早めに心の準備ができたことは良かったですし、この苦しみから解放されると思うと……正直、少しほっとしておりますのよ」

 

 ふうっと息をつく。涙が零れないように。


 「──願わくば……私の体を生かして、私の代わりに国に貢献して頂けるような……強く、優しい女性でしたら嬉しいですわね……」


 

 「──アイリーン嬢。その点は大丈夫ですよ。

 精霊を使って彼女を監視しておりますが、彼女もまた霊力が強いあまり、あちらの世界で苦労されているようです。苦労されている分、人に優しくされているように見えます。

 責任感が強く、優しいところはアイリーン嬢とそっくりですね……だから、お二人は親和性が高いのかもしれません……」


 困ったように眉を下げる王太子殿下……大丈夫かしら?


 「あら、殿下。王族たるもの、そんな簡単に弱気になってはいけませんわ!

 ご自分を責めてはダメでしてよ。国を守る前に、まずはご自分をお守りしませんと! ご自分を大切に! 聖女様とも仲良くしてくださいませ。殿下は不器用ですから、心配ですわね!」


 くすりと笑うと、少しだけ悲しくなった。



 「父上、母上に続き、父上より先に逝く事をお許しくださいませ。今まで大切にしてくださったこと、感謝しております。……父上、大好きですわ!」


 父上は目を見開くと泣きそうな、しかし、暖かな眼差しを私に向けた。


 「ああ、アイリーンは最高の娘だよ。死してなお、このベルナルディ王国の役に立つのだ……! ベルチェの者として、父として誇りに思う。

 しかし、可愛い我が娘よ……助けてやれない父ですまなかった。せめて安らかに眠れるよう、精霊の御加護があることを祈ろう」


 宰相として仕える父は、強く、いつでもしっかりとしていた。父上の涙は初めて見るものだった。


 ──あぁ、私は愛されていたのだ。

 泣きそうになるのをこらえ、そっと目を閉じる。


 神殿長が、そっと魔法陣の描かれた白く柔らかなベールを私の体にかける。


 ───高潔なアイリーン・ベルチェの魂がどうか安らかに眠れるよう、精霊の御加護があらんことを───



 こうして、魂が肉体から分離され、仮死の魔法が施されたのだった。




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