アイリ、陛下と夜遊びをする①
ここからラブ回。
──布団にもぐりこんで、目をつぶってみたものの……眠れなかった。
「──ちょっとお水、飲もうかな……」
ベッドの横のソファーで気持ちよさそうに眠るリーニャを起こさないように、そうっと起きた。
そっとベッドルームから出て、レモンの輪切りとミントの入ったレモン水が入った水差しを取りにリビングへと向かう。
エミリーが、寝る前に用意してくれていたレモン水。
レモンの酸味とミントの爽やかさが口の中をさっぱりと潤してくれる。
──コツン。
小さな物音がして、窓を見ると陛下がバルコニーの柵にもたれ立っていた。手をヒラヒラとゆるく振っている。
よく見ると、人差し指を口に当てている。
──静かに、ってことかな?
そうっと、リーニャを起こさないように、バルコニーの扉を開いて外に出た。
「こんばんは? 陛下は、なぜここに?」
「僕が僕じゃなくて、幻影魔法で化けた誰かだったらどうするの? 防音魔法をかけて、気を失わせたら……アイリ、あっという間に攫われちゃうよ?」
『だから簡単に開けちゃダメだよ? まぁ公爵家だから守りも堅いけど』 と、おどけたように陛下は笑う。
「あ、じゃあ閉めますね。どう見ても不審者ですし」
「待って待って待って! 僕が悪かったです! ごめんなさい!」
しっぽが萎れている……見たら陛下だって絶対分かるから、騙されないのに……
「──陛下には悪霊がいつもくっついてますから! え、合言葉でも作ります? あ、窓越しじゃ分からないから、また念話の魔道具……?」
「く……っ……あははははは! 夜に会いに来たこととか、部屋まで押しかけたことについては怒らないんだ?」
陛下は、屈託のない笑顔でお腹を抱えながら本当に楽しそうに笑った。
──そんな顔もするんだ……
不覚にも "笑った顔" が好きだな、と思った。
なんだかんだ言っても "国王" だから、基本的には引き締まった顔だし、あとは、たまに見せる、甘いにこやかな顔。
せめて私といる時には、いつもこういう風に笑ってほしいなぁ……
「──まぁ、たしかに部屋まで来たら "つきまとい" ですけど。本気で何かしてやろうと思ったら、今だって攫えるし、花束に魔法とかで細工もできたでしょう?」
「──ありがとう。アイリの嫌がることはしたくないよ。
花束は何も仕掛けてないから安心して? あれは純粋な僕の気持ちだから。あ! アイリがこの世界に来てからは、"監視" はしてません! 本当はずっと見ていたいけど……!
──今度、アイリと僕だけの念話のアイテムを贈るよ。丁度いいから、婚約指輪にしようかな?」
陛下はまた嬉しそうに笑った! ゆらゆらと揺れるしっぽが見える……!
──ナデナデ。
「っ! 〜〜〜〜! ////あ……アイリ!?」
「っ! あっ、ごめんなさい。なんか犬みたいで可愛くて……つい。陛下、髪の毛黒いし、うちで飼ってた "コロ" みたいなんですよね」
「──あぁ、君が見えることで仲間外れにされてしまって泣いていた時、いつも側にいてくれた黒くて優しい子だね……?」
「……それも知ってるんですね」
陛下は悲しそうに目を伏せる。
「視ていることしかできなかったけど……。本当は行けるなら、僕が側にいて慰めてあげたかった。僕が友達になるよって言ってあげたかった。
──でも、もうダメ。アイリは僕の妻にするから」
「──っっ!////」
──いたずらっ子のような笑顔を浮かべて、平気でそういうことを言うっっ!!!!
私は女子高育ちの田舎者なので、そういうイケメン耐性も、キザなセリフ耐性も無いんですっっ!
なんだかんだ黒わんこに甘い私〜
押せ押せ黒わんこ〜!