SIDE:カミーユ─アイリを想う─
カミーユ回。
カミーユ、(エミール)視点。
───王城内 国王執務室
アイリとの時間を取ったので、執務室に戻ってからはエミールに見張られながら、食事も摂らず、ずっと書類に目を通していた。
──今日のアイリは可愛すぎて、仕事に戻る気になれなかった。
実はこっそりと、自分だけに見えるように、向こうの世界でのアイリの姿を、今のアイリーンの姿に投影している。
アイリーンも可愛い。この国の令嬢の中でもトップクラスだ。
──だけど、黒髪のアイリが一番可愛い!
エミリー、と言ったか? あの侍女には、他のヤツの前では可愛くしないように強く言っておかなければ。
特に、果物を美味しそうに夢中で食べるアイリは……めちゃくちゃ可愛かった……
両親に頼んで、果樹園を拡張したかいがあった。連れて行って良かった……
口を拭ったときの、真っ赤な顔なんか……もう……可愛すぎて……///
「あ〜、一刻も早く結婚したいな〜」
「陛下〜、顔が気持ち悪いことになってます〜。
──まぁ、でも、こんなに仕事が捗るなら、たまにはアイリ様を呼ぶのもいいですね〜」
『アイリ様がいると体調も良さそうですし』そう笑って、エミールは仕事をするカミーユに、コーヒーを差し出す。
──パサッ。
転移魔法で手紙が届いた。
アルベールから送られてきたメモを開く。
「やっぱりアイリの霊力は生まれつき、ね。」
見えることで気持ち悪がられ、同年代の子たちに仲間外れにされ泣いていた幼いアイリを思い出し、苦い気持ちになる。
──この国でも、精霊や死霊が見えること、霊力を持っていることは "普通" ではない。
だが、この国では、みな生まれつき "魔力" は持っている。
魔法の適性や、保有する魔力量、魔法をどれくらい使いこなせるか、といった魔法能力は人それぞれだが、生活魔法や低級魔法くらいならば庶民でも使える。
しかし、魔力が高く、高度な魔法能力の持ち主はそう多くはない。高度な魔法を使えるのは大体、貴族や準貴族に限られる。血筋の良さからだろう。
そんな、高度な魔法使いよりも少なく貴重なのが、霊力を持つ者、精霊使いなどである。
霊力が高く、高度な霊能力者─霊を見る能力や、精霊の使役能力、精霊の加護持ちなど─は、むしろこの国では敬われる存在だ。
魔力、霊力、どちらもこの国ではありふれたものなのだ。
「──アイリやアイリの弟さんが最初からこの国で生まれていたら、理解の点では苦しまずに済んだのにな……」
アルベールのメモには、
・アイリの元の体─神殿長の隠し部屋に置かれ、状態維持の魔法が掛けられている─、転移魔法陣、向こうの世界の出口さえあれば、アイリは移動ができるはず
・霊力を保持したまま、世界を渡ってきたということは、逆にこの世界で得た力 "浄化の力" も向こうの世界で使えるだろう
・籠原家の浄化ができれば、アイリの母と弟の衰弱が和らぐだろう
・ベルチェ家の魔道具師によって作られた魔道具の所有者認定から、アイリの魔力適性はおそらく水。水に関する魔法が得意だろう。
・明日から、貴族としてのレッスン、そして魔法や霊力などの能力の講義を始める
・魔法や精霊の無い世界の者が、どのように理解し、魔法を使うのか様子を見る。これは機密保持の観点から、アルベール自ら最初は講義をする。
・アイリとアイリの弟には "夢見の力" があること。夢を見たらメモを取るように勧めておいた。
という内容が書かれていた。
──自分が絶対にアイリを守る。
しかし、常に一緒にいられるわけではない。万が一に備えて、水魔法での攻撃や防御術なんかも身に着けてもらえたら安心だ。アルに頼もう──
「! あ、そういえば、カミーユ!
あの薔薇、9本だよね?
向こうの世界の人って、薔薇の本数の意味って分かるのかねぇ?」
「ほら! アイリ様に、アイリーン嬢の記憶があるって言っても、あまり恋愛に関するものは詳しくなさそうだし?アイリーン嬢だから!」
「……っ!」
エミールに言われ、振り返る。アイリは喜んではくれていた。
──もしや、あの反応はただの花だと思われている?
っていうか、アイリのことだ……花束ではなく果物への喜び……なの……か?
「──せっかく品種も! 色も! 本数も! あんなにめっちゃくちゃ悩んだのに!? 伝わってないかも、だと……!
……っ! ……あぁ……! 果樹園なんかに連れていくんじゃなかった! 果物に持っていかれた!
今日のメインは! 花束で気持ちを伝えることだったのに! ……ダメだ! こうしてはいられない!」
──シュッ。
「──あーあ、行っちゃったよ。なんで手紙の一枚も入れなかったんですかねぇ?
てか、昼間まるまる告白のような時間だったじゃないか! カミーユってバカなのか……?」
──仕事もめちゃくちゃできるし、やる気になれば早いし、本当はめっちゃくちゃ優秀なのに! なぜ! 今まで気づかなかった!
「……なんか、アイリ様鈍そうだし? カミーユはアイリ様のことになるとバカだし? 大丈夫かな、あの二人……」
残念な友の恋路が心配になった。
ちょこちょこ、小話的なの思いつくけど、別で書くべきか、挿入するか悩む文才の無い私。