アイリ、薔薇を飾ってみる
愛理ちゃんの自覚回。
部屋に戻って、エミリーに手伝ってもらいながら湯浴みをして部屋着に着替えた。
湯浴みをしているうちに、リーニャは眠くなったのだろう。
寝室のソファーの丸いクッションに小さな体をうずめて眠っていた。
ソファーの丸いピンクのふかふかクッションは、リーニャの定位置になった。
エミリーが見繕って持ってきてくれた白い陶器の花瓶に、陛下から帰り際にもらった赤い薔薇をさす。
そして、ソファの前のガラスのテーブルに置いた。
うん、部屋が更に華やかになった。たまにはお庭からお花をいただいてくるのもいいかもしれない。
「このリボンからは、ほんのり優しい魔力を感じますね。陛下からの愛ですね!」
エミリーが教えてくれたので、ブーケを結んでいた赤のリボンは花瓶に巻きつけリボン結びにしてみた。
たしかに、赤いリボンにはふんわりとした優しい緑色の靄のようなものが掛かっていた。
サテンのリボンの艶が明かりに照らされ、キラキラと光って綺麗。
「薔薇がより綺麗に長持ちしますように──」
エミリーが薔薇にふわりと手をかざすと、ふわっと淡い緑色の光に包まれた。
「私は緑の魔法が適性なので、植物とは相性がいいんです。
きっと、長持ちするように魔法が掛けられていたと思いますが、これで、普通よりは長く楽しめると思いますよ」
エミリーはふんわりと微笑むと満足そうに頷いていた。
「この緑色のも魔法なのね? エミリーにぴったりの淡くて優しい魔法ね」
「えっ……お嬢様……魔力、いや魔法が見えるのですか……? ジェスパーさんのもやはり魔法を掛けている様子が見えていたのですね……!」
──そっかぁ。あれはやっぱり魔力? きっと魔法なのね?
「わ、もう寝ないとお肌に悪いですね!
では、お嬢様、おやすみなさいませ! 明日はドレスの打ち合わせ頑張りましょうね!!」
エミリーが下がり、ベッドに横になる。
薔薇を見ると、陛下の顔が思い浮かんだ。
「──婚約かぁ……ほんとは、ちょっと冷たくしてやろうと思ってたのに……」
長い一日だった。でも、思いのほか時間が経つのが早かった。何より楽しかった……
こんなに楽しかった日はいつぶりだろう……
──日本にいた時、特に幼少期は霊感があることで気持ち悪がられ、仲間外れにされた。
精霊たちも関わっていたとはいえ、霊に家族もボロボロにされてきた。
あちらでは、一つも役に立たなかった霊感が、こちらの世界では役に立つ。
そして、日本にいる時から、知らないうちに長い間ずっと陛下は見守ってくれていた……
私にも味方がいたんだ、って思ったら、胸がきゅーってなって、嬉しかった。
ずっと、霊感のことも、家の事情で辛かったことも、誰にも打ち明けられなかった。
重い人、気持ち悪い人、なんか変な人って思われたり、言われるのが……怖かった。
──そんな、上辺だけの人間関係。
母は離れに籠る毎日。弟は病気がちで学校にもあまり行けていない。
頼れる人なんていない。分かってくれる人なんていない、自分がしっかりしなくちゃ!
霊が見えても体が丈夫な私が働いて稼いで、この家を守らなきゃ。
稼ぐために、良い会社に入るために、東京の偏差値の高い大学に入った。
全ては籠原家、家族のため──祖父母に言われて、ずっとそう思い続けて頑張ってきたつもりだ。
──なんとなく、胸がじんわりと暖かくなって、泣きそう……
ずっと気を張っていた、ずっと欲しかったのは信頼出来る人、暖かな家族や友人だったのだ、とこの世界に来てから気がついてしまった。
「勝手に召喚されたのに、向こうに帰りたくない……なんて、私はおかしいよね……」
私の過去を回想しながら、甘い顔で微笑む陛下の顔が思い浮かんだ。
──っ! そういえば、黒わんこになめられないようにって、エミリーが綺麗にしてくれたのに!
普通に舐められたし!!!! ペロッて……! ペロッ……
「っっっっ! うう〜っっっっっっ////」
指ペロを思い出してしまい、熱くなった顔を隠すように布団にもぐりこんだ。
体と顔が熱くて……眠れそうにありません(泣)
ちょこちょこ工事します。
許してちょんまげ