アイリ、陛下と果樹園に行く
王様溺愛回。
───王城庭園内 果樹園
「アイリ……今日はオレンジの香りが爽やかで素敵だね……! オレンジ色のドレスも素敵だ……! 髪型も可愛い! ガラスのバレッタはベルチェ領のかな? うん、似合うね!
あぁ、本当はずっと褒めたかったのに機会が無かった! 今日も本当に可愛いよ!!!!」
頬を緩ませながら、ここぞとばかりに褒めちぎってくる。恥ずかしい!
『……向こうの世界の黒髪のアイリは、何もしなくてももっと可愛いけどね!』……黒わんこがなんか言ってる。
「あ、そうだ! オレンジ、で思い出した! アイリ、果物好きだよね? 何種類か果樹園に植わっているんだ! 見に行こうよ!」
──そんな陛下の一言で、果樹園見学に来ている。
陛下自らエスコートしてくれた。同行者は、リーニャ、エミリー、陛下側近のエミール様だ。
さすがに、この国の宰相と神殿長がずっと抜けているのは、仕事に支障が出るらしい。
そのため、お父様とお兄様は、アイリ様を守る会〜第一回作戦会議〜の後、それぞれ仕事に戻っていった。
──ちなみに、陛下はしれっと残った。
『明日から本気出す! 今日は"栄養補給"をする!! 明日から頑張るため!』と、エミール様に意味の分からない駄々をこねまくり無理矢理残った。
──そういえば、お兄様は、神官兼研究者らしく研究熱心なようだ。
持っている霊感について、そしてアイリーンの死後のことも気になっているようだった。
『二人に詳しく聞きたい』ということで、今日は帰ってからお父様、お兄様、リーニャと食事を一緒にとることになった。
『今日は絶っっ対に早く邸に帰る。あのバカに捕まってたまるか!』と、血走った目で熱く決意表明をしていたのが、昨日の黒わんこのお守りの大変さを感じさせた。
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──果樹園は、とても素晴らしい場所だった。
果樹が程よく日光を遮り、精霊たちが楽しそうに木々の間を飛び回る。精霊の淡い光と、葉の緑と、色とりどりの果物のコントラストが美しい。
ここには死霊は少なく、王城内では比較的空気が軽く、心地良い空間だった。
向こうの世界で見た事のある果物もあったし、見た事のない果物もなっていた。『どんな味がするんだろう?』見るだけで楽しい。
「アイリは、向こうの世界でも "コタツ" に入って、果物をよく食べていたよね?」
──よく見てますね……果物大好きですよ……! こたつにみかん! 鉄板!
広めの果樹園をぐるりと案内され歩きつつ、陛下は次々と果物をもいでいった。
陛下はにっこり微笑むと、魔法で敷物をサッと敷き、どこから出したのであろうか? クッションとパラソルまで出した。
そして、お姫様抱っこされ、ふかふかのクッションの上に座らされた。
「あぁ! やっとアイリと2人きりに……『させません。』」
エミール様とリーニャとエミリーの声がピシャリと重なる。
「──陛下……忘れてたでしょう?」
「アイリーン嬢としてデビュタントするまでは、手を出さないって! さっき、クロヴィス殿と誓ったではありませんか! 2ヶ月くらい待てないんですか? 猿なんですか? アイリーン嬢に、何かあったら僕の首が飛ぶんですよ!?」
──エミール様は、どうやら黒わんこの首輪役のようだ。
こんな奔放な黒わんこのお目付け役だなんて……可哀想に。荷が重いだろう。
「っっ美味しい! これなんだろ? ジェラートにしたら美味しそう。これはミックスジュースに……これはそのままが美味しい!」
──ちなみに、果物はどれも本当に美味しい。
その中でも、鮮やか赤い実、中がプチプチとした食感で甘酸っぱい果物が気に入った。
『レッドプティボール』 という果物らしい。ふむふむ。うまーい!
「──アイリはそれが気に入ったの? お代わりいるなら、精霊に持ってきてもらうよ? ……あ、口についてる。」
──ペロッ。
黒わんこは、さらっと私の唇を拭った人差し指を舐めた。
「……*☆?‼&□※♂〜〜〜っっっ////」
──結局、その日食べたどんなに甘い果物より、指ペロが一番甘かった。
甘酸っぱい気持ちを持て余す愛理ちゃん。
押せ押せ黒わんこ!食べ物で釣るのだ!!