アイリ、召喚される
長かったので分割。
──ペリペリ……ペタペタ。
「結界の御札さんたち〜、一年間お疲れ様でした〜!」
一年間貼りっぱなしだったこともあり、なかなか剥がせない。意外と重労働!
「──でも、もうちょっと結界強くてもいいんじゃないかな〜? なんか視線感じるし、ちゃんとおうち守ってね? 頼むよ〜?」
今、こうして結界札を張り替えている最中も、何か鋭い張りつめたような空気、視線を感じる。
……とはいえ、霊感の強い神主さんにお願いしてこのレベルなら……しょうがないってもんよね。
──こうして、最後の1枚を貼り替えた!
「よっし、おじい! 全部貼り替えたよ!」
「おお、良くやった! 神棚に明日飲む御神酒の一升瓶があるんだが、それとお猪口を用意しておいてけろ」
一年間、神棚に供えた日本酒を "御神酒" として、元日に家族全員で飲むのが籠原家の習わしなのだ。
こどもは一口のみ! これで神様の良い力を体に取り込んで一年間健康に過ごせるのだ、と言われて育ってきた。
「──よっと! 神棚、奥広すぎでしょ……! 一升瓶、全然届かないんですけど……!!」
庶民的にはお高い、立派な桐箱入りの純米大吟醸酒。
その立派な大きい桐箱が……遠くて手が届かない!
背伸びをして、一生懸命に神棚の奥へと向かって腕をのばしていく。
あぁ……! 私、生まれて初めて腕が伸びる能力が欲しいって思ってしまった!
「っっあ! あと少しぃ〜!」
──ピカッ! ……シュッ!!
あと少しで桐箱に手が届くか、という所で、神棚の神鏡が光った。
そして──どこかに連れ去られた……!?
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──ぱちっ
えーと? ここはどこ?
高い天井に、まるで海外の教会のような、黄土色っぽい天井画が広がる空間……と、立派な柱……の神殿? 見覚えは……ない!
「ようこそ。聖女アイリ様!」
目を開けて、見知らぬ光景にぼうっとしていると、黒髪長身のイケメンが心配そうに顔を覗き込んできた。
澄んだ黄土色の瞳が潤んで揺れている。
──なんでだろう。私、この人見たことあるんだよなぁ……
そんな長身イケメンの後ろからは、何かとてつもなく強大な……深い紫色をした靄のような物が広がっていた。
そして、こちらを忌々しげに見ている、禍々しいどす黒い殺気をを放つ悪霊たちと目が合う。
くっきりはっきり顔も体も見える。いやぁ、この霊たちなかなか念が強いと思うんだよね……
──って、え? 目が合う?
あれ? 私、なんでいきなり見えるようになってるの!?
めっちゃかっこいいのに、この黒髪イケメンさん……! めっちゃヤバいのに囲まれまくってるんですけど……!
ねぇ、この人悪霊だって気づいているのかな?
明らかに悪霊だよ……? 悪霊たちからの視線! 睨まれてて殺意ビンビンでとっても怖いんですけどおお!!!!
視界からの情報量が多すぎて、一瞬の間に何が起こったのか理解が追いつかなかった。
いや、できれば理解したくなかった。
イケメン耐性が無いのに、黒髪イケメンの顔面が近すぎたことと、イケメンの涙も良くなかった。
濡れたまつ毛と伏せた目、色気がありすぎる。
何より、久しぶりに、ずっと見ないようにしていた霊を大量にガッツリと見てしまった挙句、霊たちの圧力……殺気がすごい。
おかしいな……私、見ないって決めてたのに、何でいきなりコイツらと目が合ってしまった……私……!?
「いやぁ……これはすごくリアルな夢だね……もう一回寝とこ」
時々工事を行うおばかさん。