アイリ、陛下の覗きを知る
陛下の回想回
「お言葉に甘えまして、口調崩させてもらいますね」
「うん、まだ貴族の振る舞いは慣れないでしょ? 今日は親しい仲のお茶会だから気にしないで」
陛下は、本当に気にしていない、という風な表情と口調だった。
アイリーン様の記憶があるとはいえ、正直言うといきなりお茶会は緊張するし、貴族の言葉遣いも難しいから助かる。
「──あの、陛下はいつから見ていた……といいますか、私のことをどこまで知っているのですか?」
「アイリが4歳の時から。14年間見ている」
「そんな昔から!? 人生の大半を見られているってことじゃないですか……」
陛下は、にこーっと微笑む。そして、教えてくれた。
「僕の趣味の一つに占術があって、精霊や水盤、占術のカードなんかを使って占うんだけどね」
──占い……可愛いね。
「魔力量が増えてきた10歳の晩に "運命の人" を占った。
満月の夜に聖なる泉の水を銀の皿に汲み、月の魔力と自分の魔力と血が必要で、そして時間がとてもかかる比較的難しい占術なんだけど。──水盤に映ったのが、アイリだったんだ」
思い出し笑いなのか、陛下は時々頬を緩ませながら嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「──しばらく、満月の夜になると、水盤にアイリを映すのが僕の楽しみになった。
満月は、月に一回程度なのに、それも月が隠れていると映せないんだ。見れない満月の夜の日は、残念だったよ。
その分、映せた日は寝る時間を惜しんで、ずっとアイリのことを見ていた。それが、僕にとってはすごく大事な時間だったんだ──」
エミールさんは、『寝不足でダンスのレッスンして倒れて、先代とダンスの先生に説教されてましたよね』 と懐かしそうに笑っていた。
「アイリは、覚えてないかもしれないけれど、水盤越しに視ている僕に、小さいアイリが笑いかけたり手を振ってくれたりするんだよ。それが、すっごく可愛くって!」
「──気付けば、どんな子なんだろう? 声はどんな声かな? 何が好きなんだろう? って思ってた」
──あぁ! なんか、家族いわく、小さい時に何も無い空間に笑いかけたり手を振っていたって……相手この人だったのか!
「ある時、水盤越しに見ていたら、丁度アイリは犬を追って小川が流れる崖の方へ向かい、川の方から、綺麗な神々しい女の人が助けに出てきた」
──あぁ! お母さんが追いかけて、間に合わない! って冷や汗をかいたと言っていたやつね?
「死霊でも……精霊でもない、彼女が何者か僕には分からないけれど、何かとてつもなく力のある存在だと見受けられた。
──それで、アイリはそんな存在に助けられるなんて、きっと "加護持ち" なんだろう、と思ったんだ」
「──自由自在に死霊を見るか見ないか決められる、それも良いものか悪いものか分かるほどの霊力があり、しかも "加護持ち"。
ただでさえ、加護持ちは貴重なのに、それも "特殊な存在" からの加護を受けているとなると、アイリは "聖女様" になりえる貴重な存在なんだ」
「──私が加護持ち……聖女様……?」
──何やら私はずっとこの人に見られていて、おまけに私はこの世界的には特殊な能力の持ち主……らしい。
……って、なにそれ、アニメとかマンガの世界ですか……?
ファンタジーすぎるんですけど……!