アイリ、陛下の緑茶にきゅんとする
ぶんぶんっ
───王城内 エントランスホール
城内に案内されると、国王陛下の側近のエミール様が駆け足でやってきた。
「お茶会の準備が出来ておりますので、みなさま、庭園にご案内致します!」
エミール様の後に続き歩く。リーニャはエミリーの鞄の中に隠れている。
──王城の敷地内に入ってから、特に空気が悪い。
空気の重さや霊からの視線を感じ、少しだけあの黒わんこに同情した。
堀に囲まれた王城の敷地内には、うようよと大量の霊がいた。籠原家と同じく、水で囲まれた王城は霊を寄せ付けてしまうのだろう。
ちなみに、王城も庭園もとても綺麗だった。
ベルチェ家の庭もなかなかの広さだが、王城の庭園は何kmあるのだろうかと思うほど、広大な敷地だった。
エミール様によると、テイストの違う庭、公園のような芝生広場、温室、植物園、薬草園などがあるそうだ。楽しそう。
「機会があれば植物園とか行ってみたいな〜」
……なんてエミリーと話していたら、
「あっ、それは陛下に言って下さいね! 絶っっっっ対、喜んで自らエスコートすると思いますから。陛下に、仕事頑張って頂くためには "飴" 、ご褒美が必要なので!」
エミール様はにっこーーーーっと、ものすごくイイ笑顔になった。
エミール様……さては、あなた……黒わんこの忠犬ですね……!?
なんだ? 私を黒わんこの飴にする気か? 私は飴ちゃんなんかより、鞭になりたいぞ? あのバカわんこを躾たい。
「アイリ様〜!」
──庭園の一角に設えられたテーブル席には、嬉しそうに手としっぽを振る黒わんこと……げっそりと顔色の悪いアルベール様がいた。
「アイリーン・ベルチェ、参上致しました。本日はお招き頂きましてありがとうございます」
ドレスの裾を摘み、礼をする。
「あ、堅苦しいの無しで! 僕が会いたくて呼びつけた、私的なお茶会だから! 会えて嬉しいよ」
黒わんこは、嬉しそうにしっぽをぶんぶん振っている。
『お嬢様……! 私にも陛下の後ろにしっぽが見えます……!』
『陛下とは幼少時からの長い付き合いですが、こんなにテンションが高いなんてレアですわ……!』
エミリーとリーニャが念話してきた。だよね? しっぽ、見えるよね? これはテンションが高いからなのか。
陛下は、『エミールと神殿長がいるから大丈夫。』と人払いを済ませると、防音魔法をかけた。
「さぁ、ここには事情を知っている人しか居ないからね。
畏まらずに、お茶を楽しもう。アイリ、来てくれてありがとう。皆、席に着いてくれ」
──席に着くよう促される。
「アイリは僕の横ね。色々と積もる話もあることだし? 聞きたいこといっぱいあるんでしょ?」
にこっと黒わんこは微笑む。悔しいが、顔はすごくかっこいい。
「かしこまりました。お隣失礼致しますね」
さりげなく、私の椅子を自分の方へと近づけようとしていた黒わんこの腕に、ぴょんっとリーニャが飛び乗り、手の甲に猫パンチをした。
『陛下、女性との距離は徐々に縮めていくものですわよ!』
「わ! その言い方! もしかして、アイリーン嬢?? 猫に生まれ変わったの?」
リーニャの先制猫パンチが効いたようだ。
「本日は陛下がアイリ様に手を出しませんように、アイリ様の膝の上で陛下を見張らせて頂きますわ。」
「膝の上……! ──いいな……! 僕も一回死んで生まれ変わろうかな……!」
──ちなみに。本日のお茶会メンバーは、国王陛下、アイリーン(私)、宰相(お父様)、神殿長(お兄様)である。
エミール様は陛下の後ろ、エミリーはアイリーンの後ろ、リーニャは膝の上に控えている。
「アイリは、"リョクチャ" と "センベイ" って焼き菓子が好きだよね?
ごめんね? "センベイ" は用意できなかったけど、"リョクチャ" は手に入ったんだ! 見よう見まねで淹れ方を覚えたんだ。僕が淹れてあげるね?」
──綺麗な所作で茶を淹れる姿は、絵本の中の王子様、いや執事のようにかっこいい。
しかも、異世界の私の好物を頑張って探してくれたなんて……きゅん……
──きゅん……じゃなくてっっっ!
愛理! ダメよ! イケメン優男だからって流されちゃダメ!! しっかりして私〜〜〜!!!!
一回死んでこい by.アルベール