SIDE:アルベール─殺意を覚える─
読まなくても大丈夫。
───王城内 国王執務室
──バサッ
ベルチェ家の紋の手紙が届いた。
「あっ、アイリのラブレター……!」
黒い犬は、しっぽを振りながら手紙を開封した。──が、読み進めるうちに、みるみるしっぽが下がっていく。
「──ねぇ、アル……? 嫌われている人に好きになってもらうには、どうすればいいと思う?」
──っっっ! 知らねえぇぇえええよ!!!! 自業自得だろうが!!!!
目の前の黒い犬に殺意を覚えた。
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───王城内 庭園(翌日朝)
ロクに眠れないまま、朝早く起こされた。今は、庭園の薔薇園で1時間も悩んでいる黒い犬を眺めていた。
「──好きな人には薔薇……! やっぱり愛を伝えるには赤い薔薇だよな……? いきなり花束は重い、のか……? ──1本、5本、9本……何本が正解なんだ……?
なぁ……アル……何本が正解だと思う……? 女性は何にときめくだろうか……?」
───知らねぇぇぇぇよ!!!! 何本でも変わらねえだろぉぉおおおおおお!!!!
──寝不足でイライラが止まらない。
一晩中、カミーユのアイリ様への想いを延々と聞かされ続けた。
「──早く……アイリ様……来ないかな……! このバカ犬なんとかしてくれないかな……!」
一刻も早くカミーユから解放されたい。
一晩中相手にして、発狂しなかった自分を誰か褒めてくれないか?
真剣に薔薇を見て悩む姿を見て、まず花束云々ではないんだ、ということを真面目に諭したい。
勝手に覗き、勝手に巻き込み、勝手にこの世界に呼び出しておいて、愛を語るなど……正気の沙汰とは思えない。
──しかし、恋は盲目だ。
カミーユは、10歳から約15年もアイリ様だけを見続け、初恋を拗らせてしまった。
もはや、俺はどこから突っ込んでいいのか分からない。眠さで考えがまとまらんし、今更あいつに諭すなんて……! 無理っっっ!
幼馴染みとして、友として、仕える者として、恋は応援したいとは思う。
だが、拗らせてしまう前に、もう少し早い内に、何とかできたのではないかと思うと……ほんの少しだけ責任も感じる気もする。
「──せめて……今日は、アイリ様をバカから守るか……! 念願の生のアイリ様を目の前にして、あいつが正気でいられるとは、思えねぇ! やらかしてくれるなよ……!」
──この後のお茶会のことを思うと……身震いがする。