SIDE:ジェスパー─お嬢様に忠誠を誓う─
ジェスパー回。読まなくても大丈夫。
ジェスパー視点小話
──コンコン
「失礼致します。
あの、ジェスパーさん、お仕事中にすみません。お願いがあって参りました。
"念話" の魔道具を作って頂きたいのですが……!」
公爵家の広い庭の奥、鍛錬場─武術剣術などを鍛錬する館、と、魔法を放てるよう何も無い広い更地─に面した小屋。
──こんなところまで、お嬢様とお嬢様付きの侍女と……猫?がいらっしゃるなんて……!
お嬢様! 養生から帰っていらしたのか!
ただ、肌艶は良く元気そうだ……! あんなに衰弱していらっしゃったのに、良かったなぁ……!
ジェスパーは、久しぶりに見るお嬢様の様子に感慨深く思った。
「お嬢様、別荘にて養生していらっしゃるとお聞きしておりましたが……! お元気になられたのですか! 良かったですなぁ!」
思わず、涙を浮かべるとお嬢様は困惑した表情を浮かべられた。
──歳を取ると、涙腺が脆くなって困るぜ……!
「ええ、もう大丈夫ですわ。ご心配をお掛け致しました。お気遣い、感謝致します」
お嬢様はにっこりと微笑むと、念話の魔道具について話し始めた。
──侍女や、養生中に懐かれ仲良くなった猫とお話したいから、念話の魔道具を作って欲しいとのことだった。
「あの、私ももう18ですもの。養生中はお断りしておりました、夜会やお茶会など出る機会もきっと増えるでしょう?ですから、侍女にこっそりサポートなどもお願いしたいですし。
それに、この猫ちゃんもね? 一生懸命に話したそうにするものですから」
くすっと微笑み、お嬢様は "お願い" すると、身につけやすいようアクセサリーの形を指定した。
──可愛いお嬢様のお願いでしたら、このジェスパー!喜んで!
猫の気持ちも分かってやろう…だなんて、なんっってお嬢様はお優しいんだ……! にゃんこ……お前お嬢様に出会えて幸せ者だな!
──手頃な鎖を切って、ブレスレットを作ってみる。
女の子だからガラスビーズも付けてみた。ガラスパーツに金具を通しブレスレットに繋げる。
ピアスは簡単だ。ピアスパーツの台座にガラスパーツを貼り付けるだけ。
そして、魔法で固定、壊れないように強化魔法を掛ける。お嬢様の猫ちゃんのリボンにも強化魔法を掛けておいた。
リボンは薄いからね。すぐ切れては困るだろう。
──お嬢様たちは、楽しそうに部屋の中を眺め、そして作業を始めると食い入るように見ていた。
この小屋自体も面白いのだろう。壁には器具が掛かり、乱雑に置かれた箱には材料やパーツなどが入っているだけなのだが。
「この小屋は素敵な工房ですわね!
それに、ジェスパーさんは……とっても器用ですのね! 黄土色の綺麗で繊細な魔法!」
──お嬢様は、もしかして石を介さずとも魔力が見えるのか!
「お嬢様がこの小屋に来るのは小さい頃以来ですね……
お嬢様が見たとおり、私の魔力は "黄土" 。魔法適性は "土魔法" 。土魔法は、土に関するものを操り、創造が得意なのです!」
「──ベルチェ領の特産、ガラスというのは、ざっくり言うと、石灰石や砂などでできています。ガラスは、土魔法を使う私にとって相性の良いものなのですよ!」
──はっ! 楽しそうに聞いてくれるお嬢様相手に、つい! 魔法談義をしてしまった!
……こんなおっさんの力なんぞ聞いても、若い子には興味ないだろう……
チラッとお嬢様を伺うと、『土なら "陶芸" とかも得意なのかしら〜? 器用だしできそう〜!』と楽しそうに何かを想像しているようだった。
──お嬢様……! こんなただの物作りが得意なだけのおっさんに……
うううう……! なんって良い子なんだ……!!!!(感涙)
「私、お嬢様のためなら! できるものは何でも作ります!」
───ベルチェ公爵家魔道具師長ジェスパー・ピカール 43歳! お嬢様に、より一層の忠誠を誓わせて頂きます!
ジェスパーは、職人肌の情の深いおっちゃん。
いい人なのです。
40を過ぎて、涙腺が脆くなってきたことと、頭髪が寂しくなってきたことが悩み。