第2話 逃避
『最強の…ぷっ』
だれかがそう言った。
クスクスと笑い声が聞こえる。
アルフは顔が熱くなるのを感じた。
『えっと……何かの間違いとかは……?』
わなわなと震えながらも声を出すアルフ
『残念ながら……』
『あの、俺…めっちゃ頑張ったんですけど…』
目じりも熱くなる。あの苦しかった修行は一体何だったのか
『……そうですか。ちなみに内容をお聞きしても?』
『腕立て伏せとか反復横跳びを……』
『あぁ、それで筋力とすばやさが4なんですね』
恥ずかしい。
測定係のお姉さんが可愛そうな人を見る目をしている。
『それに俺、昔魔物と戦った経験もあって……』
『そういう方も大勢居られますよね……』
沈黙が流れる
『……う…』
『…う?』
目じりがさらに熱くなる。そしてアルフの涙腺は崩壊した。
『ぬわあああああああああああああっ』
笑う人や憐れむ人。様々な人々を後にし、アルフは神殿を飛び出した。
『ちくしょうっ!ちくしょうっ!』
泣きじゃくりながら街を駆ける。
街行く人々が何事かと不思議そうな顔で見てみる。だが、そんなのを気にする余裕はなかった。
他人からすれば笑い話かもしれない。それでもアルフは彼なりに血のにじむような努力をしたのだ。
しかし残念なことに彼はその努力が足りなかった。
そのときガッっと足を躓いた。
ずべぇっ
そして盛大にコケた
『……ぐすっ』
自分は特別ではなかった。いや、悪いほうでの特別であった。
弱い自分では聖騎士になるどころか騎士になることさえ叶わない。
このまま夢を諦めて元居た村へ帰ろうか。
アルフの心は折れていた。
コケた際に打った顔から血が出ている。だがどうでもいい。
このまま地面になってしまえばいい。そう思ったアルフは起き上がる気もしなかった。
『俺、何で騎士になろうと思ったんだっけ…』
そう呟く。
アルフは以前、魔物と対峙した経験がある。
そしてその討伐に貢献したことから自分には才能があると思い込んでいた。
だが、現実はどうだ
アルフは弱い。受付のお姉さんが言った通りならば最弱なのだろう。
そのとき、
『ねぇあんた大丈夫?』
そんな声が聞こえた。
アルフは顔を上げ声の主を見ようとする。
すると白い布が見えた。
『ちょっ!あんたどこ見てんのよっ!』
ベキィッ!!
アルフの顔に靴がめり込んだ。
それと同時に首に強い負荷がかかり、アルフは気を失った。
『あ、やば。やりすぎた。』
少女の声がむなしく響いた。