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私の在リ方  作者: 空木
1 クラス会と告白
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間抜けな恰好にされた事は恥ずかしかったけど、ここでまた尚輝に食ってかかったら学習能力がないと言われると思い、反論しそうになった口を閉ざした。



「う……」


「いつもそれくらい素直だったら良いのに」



私が押し黙った事で、不満足そうではあるけどどうにか合格点といったような呆れたような声を出した。


私は何だかんだ言っても、尚輝には勝てない。

落ち着きのない私と違い、常に冷静で周りをよく見ている尚輝。


だから、兄のような存在なのだ。私より立場が上っぽくて、兄って言い方が気に入らないけど。

親までもが私よりも尚輝を信用してるから、私の事も頼んでくる。それもまた、気に入らない点の1つだ。



2駅を過ぎて目的の駅に到着すると、尚輝は私の腕を取って降り口へと引っ張って行った。

駅構内は窮屈な電車内の混みようを考えると、少しは空いている。



「もうはぐれる心配ないから手離してよ。いつまでも子供じゃないんだし」


「瑠璃のくせに生意気」



ボソッと言いながら尚輝は腕時計を確認すると、それまで急ぎ足だった歩調が少しだけゆっくりになると同時に掴まれていた腕も離された。



「これなら余裕で間に合うな」


「本当?良かった。急いだ甲斐があった」


「俺が迎えに行かなきゃ、まだ寝てたかもしれないよな」



安堵する余韻を与えないつもりなのか、チクチクと棘を刺してくる。

この嫌味は、暗に私からのお礼の言葉の催促だ。



「そうですね尚輝が迎えに来てくれたから助かりました」



私は棒読みで、一気にお礼の言葉を並べた。

誰が素直にお礼を言うか。



「ねじ曲がった性格だな。そんなんじゃ、彼氏なんていつになるやら……」


「これでも合コンじゃモテるんですけど!」


「それは瑠璃が喋るまでの話で、すぐに男が引くんだろ。お前も黙ってればな……。せっかく気の強さが顔に出てないのに、本当、無駄だし残念だな」



どうしてそれを知ってる……。

一度だって尚輝に合コンで会ったことないのに。

それがバレるのが嫌で、友人から尚輝との合コンセッティングも死に物狂いで断り続けていたのに。何のために今まで……。


って言うか、気の強さが顔に出てないのに、それを生かせていないって事!?憎たらしいー!


私を散々貶し嘲笑っていた顔に冷静さが戻ると、尚輝は私の頭に手を乗せた。



「ま、変に女の子らしく演技をするような女よりは、よっぽど良いけどな」


「褒めてるのかけなしてるのか……」



乗せられた手に少しばかり苛々しつつ、足を止めず歩みを進める。



「あんまり気にするな、ハゲるぞ」


「一度で良いから、尚輝を言い負かせたい」


「はぁ?」


「そういえば尚輝の焦った顔って見たことないかも……」


「瑠璃?」


「いつか見てやる」


「会話がかみ合ってないぞ、それは瑠璃の独り言?」



険しい表情を崩さない私はブツブツとぼやく。

尚輝の存在を忘れたかのように振る舞う私に尚輝は頭を掻きながら、先を歩く私について来た。



「場所わかるのかよ」



その言葉に私の足が止まり、回れ右をした。



「駅前ってしか覚えてない……」


「じゃあ俺の前を歩いてっても意味ないだろ?何考えてんだか知らないけど、ちゃんと俺の側にいろよ」



尚輝のセリフに苦虫を噛み潰したような表情の私は、自分でもわかるくらい不満の色が濃く出ている。

尚輝の勝ち誇った顔を一睨みすると、先に歩き始める後ろ姿を追いかけた。


こんな小競り合いは悔しいくらいの日常で、毎度尚輝に勝てない自分がちょっと情けないと思う。

でもいつもの事過ぎて、さっきまでの悔しい気持ちが歩いている内に薄れてしまうほど簡単に流せてしまう。単純すぎて何だか嫌だけど、これが私の長所だって事で自分の言いようのない気持ちを抑えた。


こんなに私が色々と考えている中、尚輝は事もなげに普通に話しかけてくる。



「二次会出るか?」


「行くつもり、尚輝は?」


「お前1人置いて行ったら、危ないだろ?俺も行く。……それにおじさんに頼まれたしな」


「お父さん?」


「送って来てくれってさ。最近物騒な話多いだろ?だから一応女である瑠璃が心配なんだろ。おばさんだって心配してたしな」



“一応”なんて言葉つけなくても、私はれっきとした女なんですけど。

ムスッとする私に気付いた尚輝は、ムカつく笑みで見下ろしている。



「だから帰る時は声かけろよ」


「……わかった」



面白くないけど、酔った女が1人で帰るのは確かに不安がある。


いつまで経っても尚輝の掌で右往左往する私が、何とも歯痒い。

徐々に落ちる私の歩くスピードに尚輝は変わらぬ速さで歩き、その差は広がってくる。



「置いてくぞ。これだからチビは歩くのが遅い」



時折振り向いては私がついてくるのを確認し、そして余計な言葉を付け加えながら尚輝は目的の居酒屋へと入って行った。


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