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実家住まいの私は、母の声で目が覚める。
「瑠璃、起きなさい!」
「……ん、……ヤダ」
「……あっそう」
寝ぼけながらも拒否する言葉をはっきりと口にする。それは眠くて眠くて仕方ないから、寝ながらででも出来る私の意思表示。
母はそんな私の返事に面白くないのか、舌打ちをして部屋から出て行った。
我が母ながら、なんて態度だ。それに休みの日くらい、ゆっくり寝かせてもらいたい。
それこそ仕事の疲れを昼寝で補填してあげないと、短い夏休み明けからの仕事が頑張れない。
寝だめ寝だめと頭の中で眠りの呪文を呟いていると、無理矢理覚醒させられた意識は微睡んでくる。
空調の効いた部屋に柔らかい布団が心地良くて、身体が沈み込んでいく。
けど、またすぐに意識を現に呼び戻す声がした。
「……り……瑠璃、いい加減起きろよ」
ゆさゆさと身体を揺らされ、スプリングが耳障りに軋んだ。
「……うるさ、い」
「面倒な女だな、……相変わらず」
ため息と共に聞こえてきたのは、聞き覚えのある低い声。
隣に住む幼馴染み、尚輝だ。
尚輝が私の部屋に来るなんて何年ぶりだろうと寝ぼけた頭で考えていると、微かな衣擦れから尚輝がしゃがみ込んだのがわかった。
気配が私の顔に近付いたと思った時、タオルケット越しの耳に囁かれた。
「クラス会、忘れたのかよ」
「あーっ!」
勢いよく飛び起き、危く尚輝の顔にぶつかりそうになったけど、すかさずそれを躱す尚輝はさすが運動神経が良いと思った。
「ま、まずい!尚輝、何時からだっけ?」
私は尚輝の返事を聞かず部屋から飛び出し、洗顔と歯ブラシを母の小言を聞きながら済ませ、階段を駆け上がって部屋に戻った。
部屋には尚輝が呆れ顔でのうのうと椅子に座っていて、私が聞き損ねたセリフを言ってくれた。
「17時30分から。あと……15分で家から出ないと遅刻」
尚輝は腕時計を見ながら、ガチャガチャと化粧品を漁る私の方に視線を向ける。
焦る私に相反し、のんびりとする所作に苛々しながらもこれからかかるであろう時間を弾き出した。
「よし、間に合う」
こんな事もあろうかと、前の日に服を用意しておいて正解だった。
寝癖のついた髪もなんのその、ハンガーにかけられたワンピースを取り、尚輝に部屋から出て行けと一方的に言い放ち追い出してやった。