勇者の運命
「いてて…どうしたんだ僕…あれ?ベリアル?」
ハヤトはいつの間にか眠っていたようで、ベリアルがいない事に気づく。
ふとそんな時、ハヤトの手元に手紙が置かれているのにハヤトは気づく。
「なんだこれは?」
ハヤトは手紙を広げて読む。
手紙にはこう書かれていた。
『愛するハヤトよ、俺はもう勇者としてのモチベーションを失ってしまった。俺はやがてモンスターになるだろう、そうするとハヤトの命も奪いかねない、ハヤト、お前は俺の愛するパートナーだ、だからこそお前には幸せになって欲しい、ハヤトよ、俺は空からずっとお前を見守っているぞ、ベリアル』
それを見たハヤトは急に胸騒ぎを覚える。
頭が今にも真っ白になりそうだがベリアルをいち早く探さないとベリアルが何かをしでかすのは容易に想像出来る。
「あの馬鹿野郎!!」
ハヤトは手紙をくしゃっと握りしめ、鬼気迫る勢いでベリアルを探しに小屋から飛び出した。
外は雨だ。
それでもハヤトはベリアルの方が心配で雨でびしょ濡れになるどころではなかった。
ーーー
一方のベリアルはネジの止まったゼンマイ人形のように崖にもたれかけ、雨に濡れながらそのまま途方に暮れていた。
(俺は勇者としてずっと世界の為に命をかけてでも尽くしてきた…、しかしその俺が、勇者がいずれモンスターになるのなら…、俺は…俺は何の為に生きれば良いと言うんだ…)
ベリアルは呆然とし、その表情には生気も見られなかった。
俺の唯一の心の支えであるハヤトも俺を強く抱きしめ、励ましてくれていたが体は小刻みに震えていた。
きっと俺がモンスターになってしまう事を知って、嫌悪するようになったに違いない。
当然の事だ。
俺はモンスターは人に厄災を振りまき、食い物にする、だから奴らは倒さなければいけないとずっと学んできたし信じてきた。
そんな俺が、いずれはモンスターに…。
全く洒落にもならない話だぜ。
俺がハヤトとずっといたら、俺はいつかはハヤトを食ってしまうだろう。
だったらその前に俺がハヤトから立ち去った方があいつも幸せだ。
ーーーいっぽう、ベリアルを探すハヤト。
「くそっ、ベリアル!死ぬな!お前は、お前は俺の大事なパートナーなんだろうが!!」
そんな時、ハヤトは足がもつれ水たまりにダイブしてしまう。
「くっ、畜生!」
ハヤトの全身は水溜りで塗れるがそれでもベリアルを必死に探し続けた。
「もし死ぬなんて事があってみろ!俺はてめーを絶対許さないぞ!!」
ハヤトは甲高い声で叫びながらベリアルを求めに走り続けた。
ーーーそして大地に崩れ落ち、生きた屍のように佇むベリアル。
ベリアルはやがて肩にかけてある剣を取り出す。
「俺はモンスターになんかなりたくない…、どうせモンスターになる位なら…、俺は勇者として誇り高き死を選ぶ!」
ベリアルは剣の先を自身の胸に当てる。
「ベリアルー!!」
遠くから最高のボーイソプラノの効いた声が聞こえてきた。
この声はハヤトだ。
その時ベリアルに心の迷いが生じる。
(くそっ、いかんいかん!俺は勇者だ、勇者なら心の迷いは打ち消さねば!)
やがてハヤトは剣で自害しようとするベリアルを見つけた。
「ベリアル!何してんだ!!」
ハヤトはベリアルの元まで走り、大声で怒鳴る。
「ハヤトか…何で俺の邪魔をする…」
ベリアルは弱々しい声で言葉を洩らす。
「ベリアル、お前はどんなに冷たくされても勇者の誇りを捨てなかった、そんなお前を俺は心底尊敬していたんだ!そんなお前が、そんな事で自殺しちまうなんて、俺が絶対に許さねえ!!」
ハヤトは声が枯れるかの如く怒鳴り声を上げた。
「俺は勇者としてずっと街を、世界を支えて来たんだ、俺がいてこそみんなが幸せでいられる、その勇者がモンスターになっちまうんだぞ?それなら今すぐその場で死んだ方がマシだろうがよ…」
ベリアルは嗚咽を漏らしながらハヤトに洩らした。
「ベリアル!お願いだから死ぬな!お前は俺が守る!」
「ほっといてくれ!モンスターになる運命なら、お前を殺してしまう運命なら、死んだ方がマシだ!!」
「良い加減にしろ!!」
ぽかっ。
ハヤトの一撃が入る。
ハヤトの拳は普通の少女程度のものしかないので鍛えられた男性らしい身体のベリアルには痛くも痒くもない。
しかしハヤトの思いは、強くベリアルに叩き込まれたのだった。
「ハヤ…ト…」
ベリアルは雨と涙に塗れた顔で同様に汚れたハヤトの身体を見る。
しかしそんなハヤトの姿はより、ベリアルにとって眩しく映るのだった。
ハヤトはベリアルの身体を強く抱きしめた。
「ベリアル、お前の背負っている運命も宿命も、今日から全部俺が背負ってやる!どんな時にだって一緒に歩いてやる!ベリアル、運命なんてな、糞食らえだ!!」
「ハヤト…う…うわあああぁん!!!」
ベリアルはハヤトの華奢な身体を強く抱きしめ、涙が枯れるまで泣いた。
ーーータルタロス。
「…くっそ、奴め、後少しだったのに…」
水晶玉を見て悔しがる魔導士。
「奴は危険人物だ、仮に奴がモンスターにでもなってしまえば魔王ルシフェル…いやそれ以上の凶悪な悪魔になってしまう!」
「何か対策は無いものか…」
広大な会議場で話し合うタルタロスの元老院達。
そこはタルタロス、勇者ベリアルの生まれの故郷である。
「特にあのガキは邪魔者ですな…」
元老院達はある者に対し脅威を抱き、これらを消そうと対策を練っていた。
そんな時、扉からコンコンとノックする音が聞こえてきた。
「奴め、今頃戻ってきたか…」
壮年の元老院がその扉を開ける。
その扉からは、ローブを纏い、金髪碧眼を覗かせた若い青年が入ってきた。
「いやー困りましたよ、電車が混んでて車で急いだものの事故で通れなくて仕方なく…」
青年は笑いながら事情を話す。
「ミカエルよ、遅れた事情はどうでも良い!」
そこで一喝される青年ミカエル。
「そうですね、所で要件って何でしたか?」
「ふむ、不要な存在は除去せねばならぬ、そこであの男の始末をお前にお願いしたいのだが…」
「あの男の始末…ねぇ…」
ミカエルは少し真剣な顔つきになる。
「奴は知らなくて良い秘密を知ってしまった。おまけに奴は別の勇者を味方にしてしまっている。そしてその人物もまた勇者の秘密を知っている、そうなれば行く末はお主も良く分かっておろうな?」
「神への反逆ですか…」
ラグナロク…堕天使達が武器を手に取り、空と大地を巻き込み多量の血の海を流した大戦争。
それによりほぼ半分の地球の自然や生命体が破壊され、ウェルシオン(天上界)をほぼ全壊に追い込んだと言う。
「そういう事だ、世界中に勇者の秘密を知られる前に、奴を始末して欲しいのだ!」
「お任せください、奴らの息の根はこのミカエルが止めて見せましょう♪」
ミカエルは口元を少し上げて答えた。




