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遠見の梟

 シュラクがボロボロの扉を押して中に入ると一人のボサボサの髪に無精髭を生やした男が机を挟んだ先で椅子にだらしなく座りつつ、タバコをふかしていた。


「よう、きたぞおっさん」


「そろそろ来ると思っていた頃だ」


 そう言った男は首を少し傾け、目線だけをシュラクの方へよこす。

 目の前の男はカール・ショースト。情報屋であり、シュラクとは数年の付き合いのある男だ。


「だがな今俺は悪いが忙しい。冷やかしなら帰ってくれ」


 そう言ってタバコを吸い、ふぅと煙を空中へと吐き出した。


「そのセリフはもう聞き飽きた。大体俺は用もなくこのようなとこに遊びに来ないからな」


「悲しい話だ」


「微塵も思ってないくせによく言うよ」


「んで、何が知りたい? と言ってもあの件についてだろう」


 男はこちらに向き直り、咥えていたタバコを口から外すと、焦げた跡がたくさん残っている木製のカウンターにタバコの先端を押し当てて火を消す。そして、そのままいとも自然な流れで後ろへと適当に放り捨てた。


「なら話は早い。あれは一体誰なんだ?」


 シュラクはそう尋ねると同時にポケットから取り出した10ルピン硬貨を指で弾く。

 弾かれた銀貨はクルクルと回転はしながら放物線を描きカウンターの上へと落ちた。


「毎度ぉ。んで、あのお前のもとに送ったおっさんだが、ありゃあ帝国の宰相秘書官だな。本人に関してはボロは出さなかったが、もう一人護衛らしき男がいてな。そいつの剣の柄に家紋らしきものがあって、それがリリシュート家を表すシンボル。まぁ、要は帝国の宰相秘書官の家のものだったってわけだ」


 宰相秘書官……めんどくさそうな香りしかしないなマジで


「なら何を運ばされられるんだ俺は」


「知らん」


「おっさんの相手をしている暇はないんだけど?」


 そうシュラクが告げるとカールは所々に髪が跳ねている赤髪を軽く掻いた後大きく溜息を吐く。


「悪いが本当にしらん。来たのも昨日とかだ、流石に調べようにも全く時間が全く足りてねぇって話だ」


 予測はついていたが、やっぱ内容は流石にわからないか……


「まぁ、だが帝国の騒動絡みだとは思うんだけどね」


「帝国の騒動と言えば……あれしかないか」


 あれとは隣のサルファ帝国の皇帝、皇太子が立て続けに流行病で死んでしまったことによる。後継者争いのことである。

 流行り病ではなく暗殺されたなど、色々噂が飛び交い帝国の後継者争いは混迷を呈していた。

 シュラクのいるメルクリア王国は、内戦が起こる可能性を考慮して警戒を高めていた。

 そのため、国境に兵力が増員されてきていた。


「おっさん。関連して聞きたいことがあるんだが。追加料金はいらないよな?」


「んー、くれと言いたいところだが、流石にさっきの情報だけじゃあこちらも情報屋としての名折れしな。それに昔から目を掛けていた可愛い可愛い人生の後輩の頼みなんだ追加は構わないぞ」


 ニヤニヤしつつ男は懐からタバコを取り出して口にくわえる。そして口に加えたタバコの先端に人差し指を向けるや否や、指から小さな火の玉が飛び出しタバコの先端を掠める。タバコに火をつけ終わったあと、火の玉は用は済んだと言わんばかりに空中で搔き消えた。


「えぇ、そのあなたが目を掛けてくれたおかげで可愛い後輩で立派に人を疑うことを覚えましたよ」


「大手柄だな」


「はぁ……で、話は戻すけど聞きたいのはその帝国の後継者争いについてなんだけど、誰と誰が対立しているとか大まかに教えて欲しい」


「んー、そうだな。お前が何を知っているか俺にはわからん。だから基本からいくが構わないか?」


 カールはタバコをふかしながら頭から情報を探し始めたのかゆっくりと目を瞑った。


「うん、お願い」


「一月ほど前に皇太子、そして皇帝が流行り病で没したのは知ってるな?」


 カールの問いかけにシュラクは首を縦に振ることで返答する。


「帝国は神剣国家というのも知っているよな?」


 サルファ帝国は昔に勇者と呼ばれる存在が建てた歴史ある国家だ。

 そして、神剣国家と言われるのは皇帝の後継者になる為には建国者である勇者の血を引くこと。そしてその勇者が使っていた神からの贈り物とされる聖剣に、主として選ばれてることで初めて皇帝と認められるからであった。

 これも有名な話であり知っていたのでシュラクは首肯する。


「でだ、皇帝とその候補にあった皇太子が死んでしまったが為に新しい皇帝になる者を探さなければ無くなったわけだ。皇太子や皇帝、そして前皇帝も一人っ子だった故に近縁に候補がいなかった。これが問題だったわけだ」


「なるほどな。で、それで候補者が数人出てきて皇帝の座を巡って争っているわけだ」


「早い話がそうだ。まぁ、いざこういう時に代わりとして王になるものを出すのが、もともと王族であった者の家である公爵家ってわけだ。聖剣は受け継ぐなかで性質を変える為、離れた分直系に比べれば多少は難はあるが勇者の血は引いているからな」


「シュート・リスキングとナーレン……ブルグルッツだっけ?」


 他国の公爵家など微塵も興味はないが流石に噂にはなっている為、シュラクはその噂で耳にした覚えの2人の人物をあげる。


「ブルグルックな。まぁ、そうだな……今時期皇帝候補に近いのはリスキング家とブルグルック家の二家だなやはり。帝国の公爵家は4つあるが一つは辞退を宣言しているし、もう一つは女性が今は当主だからな。男女平等が叫ばれている世だが……男がなるべきだって古臭い考えがまだ幾らかは残っているから厳しいだろうな」


「ちなみに宰相秘書官の家はどこの陣営に肩入れしてんの?」


 その男がどこの陣営側なのか知れたら何かしらの目的がわかるかもしれない。実際に運ぶものを目にした方が早いだろうけど予備知識はあるに越したことないしな。


「そこら辺はわからないが……宰相秘書官のあの男はともかく、その直上の上司である宰相は少なくとも表向きは中立だな。現帝国宰相は放棄した公爵家の人間だしな」


「なるほど、じゃあ次にそれぞれの公爵家の当主を含めた評価と大体の……?」


 シュラクが次の質問をしていると、突如カールが右手を前に出しシュラクに待ったをかけた。

 シュラクが止まったのを見るとカールはタバコを口から外しシュラクに向けて煙を吐き出すと、笑みを浮かべつつ口を開いた。


「欲張りはいけねぇな。これでサービスタイムは終了だ。これからは追加料金の時間だ坊ちゃん」


「……」


 シュラクは無言で銀貨をカールの顔面に向けて弾き飛すのだった。

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