強運だけで成り上がった最弱横綱、あやうく相撲界から追放されかける
千歳雨は幕内力士としては決して強くはなかった
勝ってもいつもぎりぎりであったが、一所懸命な取り口でハラハラさせられるところがよいと人気者だった
反面運がとてもよくて不戦勝が多く、実力以上の番付を維持していた
ある地方場所で、場所直前に大規模な食中毒が発生した
悪運の強い千歳雨はちゃんこを食べずに外で牛丼を食べて難を逃れた
しかし他の力士たちは被害を受けたものが多く、場所が始まると休場力士が続出した
無理に出場しても長時間裸足でいて身体を冷やしてしまうため、土俵上で粗相をしてしまう力士も少なくなかった
このため結局は途中休場する力士が多く、一人だけ体調万全な千歳雨が不戦勝で勝ち星を稼ぎ優勝した
場所後、千歳雨は大関に昇進し、ファンは拍手喝采であった
翌場所も体調が戻らない力士が多く、千歳雨は全勝優勝した
場所後の巡業で再び食中毒が起こった
千歳雨は抜け出してコンビニで焼きそばパンを買って食べて無事だった
再び体調不良の力士だらけの場所で千歳雨は全勝優勝した
さすがに二場所連続全勝優勝だと相撲ギルドも千歳雨を横綱に昇進させざるを得ない
相撲ギルドの幹部は千歳雨が大して強くないことを知っていたが、人気があるからいいかと看過した
他の横綱は外国人ばかりで実力はあっても粗暴で傲慢なため人気がなかったのだ
千歳雨が横綱に昇進した翌場所は空前の相撲ブームとなって、会場は熱狂の渦と化した
しかし千歳雨は弱かった
体調が戻った幕内上位の強豪相手に精一杯がんばり、粘りに粘ったが結果は6勝9敗と負け越した
相撲ギルドの幹部は千歳雨が幸運だけで本当は弱く、綱の権威が保たれないと懸念し焦った
翌場所も千歳雨は実力どおり初日から7連敗した
ギルドマスターは中日の支度部屋で千歳雨を叱咤激励し、千歳雨は盛り返してこの日、辛勝した
さらに翌日も必死に粘って勝ちを拾った
千歳雨の懸命な相撲に感動した満員のファンは大声援で後押しした
しかし翌日、健闘むなしく千歳雨は敗北して負け越してしまった
相撲ギルドは千歳雨に見切りをつけ、幹部は全会一致で引退勧告を行った
千歳雨はギルドマスターたちにもう一度チャンスが欲しいと哀願したが、結局は休場することになった
しかし相撲ギルドは理解していなかった
現在の相撲ブームが競技人気によるものではなく、千歳雨の個人人気によって支えられているということを
千歳雨休場後は観客が激減して会場は空席だらけとなり、メディアの扱いも格段に小さくなった
減収の責任を問われたギルドマスターやサブマスターは最終的に辞任に追い込まれた
空いた年寄株を買った千歳雨は悠々の親方ライフを楽しんだとさ
おしまい
念のため、本作品は架空のものであり、実在の個人・団体とは一切関係ありません