「さぁ……どうぞ、先輩。一思いに殺してください」
「たぶん、もうすぐ私、自我がなくなるんスよ……。だから先輩……最期のお願いっス……。そうなる前に私を殺してくれないっスか?」
「…………嫌な役目だな」
「はい……、こんな役回り、先輩しか請け負ってくれそうな人がいなくて……」
「どうしても殺さなきゃダメか?」
「……はい」
「では、さっそく公園へ行きましょう」
「もう時間なのか?」
「はい、ていうか、もう本当は壊れててもおかしくないんスよ……。だから先輩、ちょっと急いでもらえたら嬉しいっス」
僕は後輩を自転車の後ろに乗せて、坂を下っていく。遠くの景色に入道雲が見えた。後輩にとって最期の夏になった。
「あそこらへんなら、人に見られなくて済みますね」
雑木林の中に後輩は入っていく。
僕はまだにわかに信じられないでいた。というより信じたくなかった。あの後輩が兵器になっていて、これから僕が殺さなきゃいけないだなんて。
「ふふ……なんか隠れてキスをするカップルみたいっスね……」
「さぁ……どうぞ、先輩。一思いに殺してください」
後輩は白くて細い首を差し出した。陶器の様な肌だった。
「最期に……兵器になった証拠を見せてくれないか……? 疑っているわけじゃないんだけど……」
「……それもそうっスね。分かりました」
後輩はおもむろに制服を脱ぎ出した。