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なぜかバトルは勃発するし、なんなら登山にきている。

       4


 

「電車で一時間ちょっとでお手軽に自然を味わえるっていいですよね」


 香菜はうきうきしながら、山道前の出店で購入した焼き団子を頬張っていた。

 炭火でじっくり焼かれ、表面が焦がし醤油でコーティングされたお団子は、空腹でなくても食指を伸ばしたくなるもの。

 登山前だし朝ごはんいっぱい食べてきたし……と買う前は悩んでいた香菜だったが、いざ食べてみると想像以上の味だったらしく、上機嫌になっていたのだった。


「平沢先輩もどうですか? おっきいのが四個も刺さってたのでお一つおすそ分けです」

「私、太りやすいから……」 

「えっ、今も全然太ってないじゃないですか! 大丈夫ですよ、一個ぐらい」

「パクチーちゃんが羨ましい……」


 そのあとも、「一個だけですから」「だめだって」なんて押し問答が続いていたが、それを後ろから「なんなのあいつ、なんなのあいつ」と呪詛を唱えながらストーキングするツインテールがいた。

 いつものハイトーンボイスはどこへやら、ついつい地声(?)で嫉妬を露わにする茉莉花だった。  


「龍ちゃんからもなんか言ってやってよ」

「いや、言うことねぇだろ……。むしろ微笑ましい光景に映ってるんだけど……」

「はぁ? それ本気で言ってる? 今までずっと慕ってきた姉をどことも知らない馬の骨にとられた気分なんだけど」

「じゃあお前、あいつの目の前で言ってやれって」

「言えないもん! キャラ崩れるし」

「俺の前じゃ崩していいのか……」


 やがて、根負けた様子で凛が団子串を手にとった。

 はじめはどうやって食べるか悩んでいた凛だったが、対面からやってくる人がいないタイミングを見計らってから行動に移した。

 垂れてくる前髪を右耳へ掛けるように寄せてから、その小さい口を目いっぱいあけて団子を掴み、串の先へスライドさせてゆく。

 その一連の所作は、ただの食事風景なのにとても色っぽく龍一に映った。


「あああぁぁ! あの女、なにやってんの! 早く止めて! あの蛮行を止めて!」

「――香菜とはまったく違うな。どうして差がついたのか……慢心、環境の違い……」

「私の話、全然聞いてないし!」


 ふぎゃあああ、ふぎゃあああ!

 狂った猫のように叫びまわる茉莉花が周囲の注目を集め始めた頃、その騒ぎに気づいたのか団子を美味しそうに食べていた凛が振り向いてきた。

 

「茉莉花、なにかあったの? 間宮くんに痴漢でもされた?」

「うううぅ……凛ちゃぁぁあん」


 わざとらしく泣き真似をしながら、凛の胸にとびこむ茉莉花だった。

 そのとき、食べかけの串の先っぽがおでこにヒットし、「う゛っ」と後ずさりするシーンは結構危なかったので良い子の皆は注意しようね!

 出血がないか確認した茉莉花は、痛む額をすりすりしながら、先導していた香菜を睨みつけた。


「佐々木さん……いや、今日からお前は佐々木香菜だ……!」

「えっ、なに……? 私なにか悪いことしたかな……?」

「おかしい……こんなことは許されない……!」


 勝手にめらめら怒りの炎を燃やす茉莉花に、「ちょっとメンヘラ入ってんのかな」と小声で香菜が息をつくものだから火に油。

 このツインテは武器にもなんだぞ、とぶんぶん振り回して香菜にヒットさせるなど奇行に走りはじめてしまった。


「あ、ちょ、暴力反対! 暴力反対だってば! 初めて会った日から我慢してたんだけど、ちょっと性格に難あるんじゃない?」

「ぶっぶー! 性格に問題あるのはそっちですぅ! 害のない顔してるかと思ったら、私と凛ちゃんの密月を団子ごときで壊しにかかって……!」

「それって被害妄想じゃん」

「なな、被害妄想ですって……!」


 わがままな茉莉花に、しびれを切らした香菜。

 今二人の戦いの火蓋が――というより、取っ組み合いの喧嘩がスタートする五秒前という感じだったので、龍一は他人のフリを貫き通そうと決意した。

 登山客たちという観衆を集めながら、その遠巻きで凛と龍一は傍観するだけしかなかった。


「あの、平沢先輩」

「なに? 本当に茉莉花に痴漢したの?」

「それ言い出しっぺそっちじゃないですか……。ていうか、あれ止めなくていいんですか?」

「争いは同じレベルの者でしか発生しないって、インターネットにあったけど」

「……要するに争いには参加しないと」

「殴り合えばわかることもある」


 騒ぎは雪だるま式に大きくなっていった。

 茉莉花のツインテール攻撃に対抗してか、香菜はどこかから木刀(観光地によくあるやつ)を握りしめて威嚇していた。

 さすがにそれで殴りはしないと茉莉花も理解はしつつ、なかなかリーチを詰められずにいる。

 聴衆もドラマかなにかの撮影だと勘違いしているらしく、その攻防を固唾を呑んで見守っていた。 


「なんで俺たち、高尾山まで来てこんなことやってるんですか……」

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