感心するし、なんなら文章を読んでもらう。
「……やっぱ書き慣れてるだけあるな、って。ちょっと文章がかたいかなって思いましたけど、その割には頭に入ってくる感じがしました」
「こうした説明文はどうしてもかたくなりますからね。でも、余計な飾りを入れていない文なので、頭に入ってくるという気持ちはわかります」
「なんつーか、駅に行ったことのない人でも、なんとなく『そういう駅なんだな』って想像してもらえるというか」
「……ということみたいです。佐々木さん」
期せずして龍一の感想を聞けた形だ。
大谷先生から原稿を返されると、香菜は照れ隠しに頬を膨らませた。
「一応経験者だから、これくらいはやらないといけないです……」
「いいえ。経験者だからといって誰もが上手いとは限りません。その意味では今回のお題にしっかり応えてくれた文章と言えます。またあとで触れますが、よく書けていたと思いますよ」
「あ、ありがとうございます……」
文章力というのは数値で決して測れない。
学力テストのように目に見えた結果が出ない以上、自分の文章を読んでもらわない限りは立ち位置を把握できないのだ。
以前の高校でも活動は続けてきたとはいえ、自分の文章がどう映るか不安だっただけに香菜は安堵した。
「それでは、次は間宮くんのほうを見てみましょうか」
「あの、よろしくお願いします」
香菜と違って、龍一の原稿の向きは縦向き。
それに横書きで文章が綴られていた。
「字ぃ、汚いかもしんないですけど……」
「うん、汚い」
後ろから見ていた凛が即答すると、龍一は「ひぃ」と声を上ずらせた。
序盤の勢いは紙面にも反映されており、殴り書きという表現がぴったりな粗い文字列が並んでいる。
お世辞にも他人に読ませる文章ではないことは確かだ。
「間宮くん、そういうところですよ」
「反省しております……」
「まあそこあたりの説教は今度の生活指導のときにでもするとして、まずは読みましょうか」
ある箇所では英語の筆記体よりも崩れているものもあり、皆は目を細め、顔をしかめた。
しかしながら、解読を進めなければ議論もできないということもあり、一文字一文字を精読する一同なのであった。
『テーマ→中野坂上駅
中野坂上駅には丸ノ内線と大江戸線が通ってる。
学校側の改札のまわりは結構古めに見えるかもだけど、最近スタバとかできて結構頑張っていると思う。
そういえば丸ノ内線の方南町行き、三両じゃ短いからもっと伸ばしてほしい。
中野坂上自体は車がよく通る道路があって、割りとうるさい感じだけど、路地裏に入ると結構ひっそりしてて閑静な住宅街感満載。
あと新中野に向かって奥の方行くと、スリランカ料理の穴場的なお店あるから興味ある人は行ってみてほしい。
カレーもそうだけどあそこのミルクティーすごく旨いから(旨い)。
以上。』
文章自体は香菜よりも少し多いぐらいの量だ。
はじめは猛烈なスピードで書いていたものの、途中からは考える時間のほうが長い格好となった。
「さて、どうしましょうかね」
メンバーが一通り読み終えたかというタイミング。
大谷先生が上のように独り言を漏らしてから、ゆっくりと柏手をたたいた。
「間宮くんのこの文章、佐々木さんはどう思いましたか?」
「えっ……わ、私に振るんですか……?」
「はじめは身近な人に感想を言ってもらうのがいいかと思いまして」
もっともらしい言い分に、香菜は「そういうのちょっとずるいと思いますけど」とすこし反論をした。
やりとりの意味がわからなかった龍一に対し、香菜は単刀直入、こう伝えた。
「あのさ、龍一。なんでこれ駅以外のことも書いてるの?」
「……えっ」