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凛はカンペを棒読みだし、なんなら疑問を抱く。

「そしたら、平沢さん。部長なのでそのまま進行をお願いします。最初の掛け声は昨年度の部長がやっていたように」

「そのあとは?」

「これをどうぞ。今日のお題目はこのプリントどおりで構いません、ほとんどカンペのようなものです」

「……わかりました。四月八日水曜日、文芸部の部会をはじめます。よろしくお願いします」


 ――よろしくお願いします。

 タイミングは別々ではあったが、皆が呼応した。

 中央のテーブルのテーブルを囲むようにメンバーは座っている。

 さすがに四人の間に割って入るのは狭いだろうと大谷先生は考えていたが、茉莉花が龍一に抱きついているから、四角いテーブルの一角を確保することができた。


「――しんがっきになりました。せんじつのぼうふううでさくらはすっかりちってしまいましたが、このぶんげいぶのいのちはちらすわけにはいきません。きょうはうれしいことにふたりのかりにゅうぶきぼうしゃがぶしつに……」

「平沢さん。それぐらいにしましょうか」


 カンペにしても棒読みすぎでしょ凛ちゃん……と茉莉花が呆れていた。

 耳元近くでその反応を聞いた龍一も、同様の感想だった。


「今日は便宜的に顧問の私が司会をします。……さて、新学期になりました。先日の暴風雨で桜はすっかり散ってしまいましたが、この文芸部の命を散らすわけにはいきません。今日は嬉しいことに二人の仮入部希望者が部室にやってきています」


 抑揚ある発話がいかにわかりやすいかを、身で持って体験する龍一たちだった。


「仮入部届ですが……もう書いてくれているみたいですね。あとは私が捺印すれば承認されます。どうせなら今押してしまいましょう」


 大谷先生はテーブル上にあった二人の仮入部届を確認すると、上着のポケットからハンコを取り出した。

 いかにもシャチハタ的なそれだったため、「えっ、これでいいんですか」と香菜が疑問をそのまま口にしたが、「まあそういうものです」と先生は流した。


「これにて佐々木さんと、間宮くん。二人は文芸部に仮入部したことになります。おめでとうございます」


 ぱちぱちぱち……。

 人数が少ないせいか、拍手もまばらでどこか寂しさを覚える。

 香菜なんかはつい自分も手を叩いてしまったぐらいだ。


「佐々木さんは以前の学校でも文芸部に所属していたと訊きました。細かい差こそあれ、大体の活動内容はそう変わってこないと思いますので安心してください」

「はい……」


 香菜のトーンが妙に落ち込んでいるのは、龍一がまだ拘束から解かれないからだ。

 先程の足の震えは治ったものの、先生もいる部会中ともあって下手に口を出したり、強行手段に出ることもできない。

 そんななか、茉莉花はまるで自分のペットやぬいぐるみを扱うように、龍一を抱いている。

 華奢な自分とは違って、茉莉花はより女性らしい身体つきをしていると言えた。

 ――やっぱりあんな感じのほうがいいのかな……と憧憬半分にダウナーになる香菜だった。


「間宮くんについては文芸部そのものが初めてだと思います。先日話した活動内容は覚えていますか?」

「ええとその、毎週水・金が部会の日で、あとは文化祭に向けて小説書いてまとめたり……って感じでいいんでしたっけ」

「覚えていてくれてよかったです。まあ文化祭で発行する冊子は別に小説以外にも、評論や詩歌でもよいのですが、傾向的に前者が多いですね」


 詩歌って、こういう部活でも浮きやすいからねと茉莉花が話した。

 どのジャンルでも公平に扱われると思っていただけに、そこあたりの空気感がいまいちつかめない龍一だった。

 一方でその発言に対し、口を挟んだのは香菜だった。


「えっ、前の学校の文芸部は短歌とか書く人いたけどな……」

「そうですね。今の和田さんの発言はやや恣意的かもしれません」

「なんでよー。だってウチの文芸部の冊子、昔のやついくら見てもそういう作品出てこないじゃん」

「……まあ、それはそうかもしれませんね。小説偏重というのが坂上学園文芸部の一つの特徴でしょう。ただ、他の学校や文芸サークルではその限りではありません」


 なるほど、同じ文芸部といっても所属する学校や団体によって、どんなジャンルの作品が持ち込まれるかはまちまちらしい。

 この学校の文芸部においては、小説というジャンルがメインで掲載されるというのが今までの流れということみたいだ。

 ん? でも待てよ?


「あの、大谷先生。質問いいですか?」

「なんでしょう、間宮くん」

「そもそもなんで共同で冊子を発行してるんですか? 小説とかって、一人で書けると思うし……別にわざわざまとめる必要なくないですか?」

「――いい質問ですね」


 大谷先生が初めて褒めてくれたような、そんな気がした。

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