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和田茉莉花は馴れ馴れしいし、なんなら挑発する。

「ぬわあああぁぁあああん!! 凛ちゃああああぁぁ…………だっ、誰?」

 どばーん! と扉を開けて、今すぐに凛に飛びつこうとした少女が急ブレーキをかける。

 誰よりも背の小さいその女の子は、アニメに出てきそうな甲高いボイスで驚愕していた。

 制服を着ているというよりも、着させられているという表現がぴったりな彼女。

 

 その顔に龍一は見覚えがあった。

 防衛本能からか、できるだけ気づかれないように身を縮こませたが、宿敵はあっという間に気づいてしまった。

 凛の名前をしきりに叫んでいたにも関わらず、少女は龍一の耳元で「見ぃつけた」とささやいた。

「ひぃ」と軽く悲鳴を上げる龍一をよそに、「くふふ」と八重歯を見せる彼女はこう続けた。

 

「なんだ、龍ちゃん。そんなに私のこと好きだったの? じゃなきゃ、文芸部まで追っかけてこないよね?」

「和田……お前は壮絶な勘違いをしている……。第一に、俺はお前のことが好きではない」

「うそ……」

「うそじゃねぇ! 何回もそれ言ったよね? 言いましたよね? ――それに文芸部だって、今日は連れと一緒に仮入部届出しに来てんだから、お前を追っかけてでは断じてない」

「――連れ?」


 彼女はきょとんとした様子で、龍一の陰に隠れていた香菜を覗き込んだ。

 それだけでは足りなかったのか、目と鼻の先までとてとて接近し、ショーケースの商品を見るように上から下まで観察している。

「ちょちょ、なにこれ……」と香菜がスカートの端を慌てて握るが、品定めはちょうど終了したようだ。


「ふふ……勝ったわ、これ」

「――龍一ぃ、なんなの……この子……」


 なぜか自慢げに勝ち誇る少女に、当惑する香菜。

 しかも香菜は負けた意識からか(?)、頬を膨らませて涙目にもなっている。

 そのカオスな状況にあえて首をつっこんでくるのも一人。


「もう茉莉花と間宮くんは、運命共同体なの?」

「平沢先輩、余計話をこじらせないでください……」


 この場を収められるのは、もはや龍一しかいなかった。

 ――いいですか。わからない人向けに人物紹介をするので、質問等はあまり妨げにならない程度にしてください、と前置きをして。


「まず、このツインテールが和田茉莉花。昨年俺とクラスが一緒でした。んで、勝手にべたつくようになったというか……」

「なるほど、茉莉花はそういう体質……」

「……凛ちゃん!? 違うよ!? なんなら触って確かめて!」


 しきりに肌を寄せようとする茉莉花に、あからさまに顔をしかめる凛である。

 あ、そういう表情もできるのか……と感心しつつ、龍一は話を継続した。


「そのきっかけが些細なものだったんですよ。放課後なんですけど、下駄箱の端っこにこいつの生徒手帳が落ちてたんで翌日渡したら、なぜかすごい喜ばれて」

「だってめっちゃ大切なものが入ってたんだもん」

「いやお前、いつまで経ってもその中身教えてくれねぇじゃん……。ええとまあ、そんなこんなでその日から学校外で絡まれるようになってしまって」

「校内で龍ちゃんみたいな人と仲良くしてるって皆に知られたら、ファンの人に刺されるかなと思って……」

「刺されねぇよ……。確かにこいつ、人気あるらしいんですけどね……」


 くるくると変わる表情から、とどめにはヒマワリみたいな笑顔。

 それにこのハイトーンの特徴的な声。

 同級生というよりは妹と接しているような錯覚が、一部の層にかなりウケている。

 ちょっとしたアイドルみたいな存在だった。


「でも他の男子は私のこと妹にしか見てくれないもん。龍ちゃんは等身大で話してくれるし」

「狙ってそういうキャラじゃなかったのかよ……。なんなら俺も妹と同じように接してるよ……」

「うそ……」


 うわっ……私の年収、低すぎ……? のポーズで固まる茉莉花を無視して、龍一はこう締めた。


「和田は変なやつですね。ストーカー気質もあるかもしれない。でも悪いやつかと言ったらそうでもなさそうです」


 その寸評に香菜はドン引きし、凛も凛で思うところがあったのか、首を縦に振っていた。

 ――おのおの反応するのはいいけど、お前ら全員一癖二癖あるからな……と思う龍一だった。


「おい、いつまで驚いてんだよ。顎外れるぞ……。――んで、こっちが佐々木香菜。俺と同じクラスです。中学上がるまで同じマンションに住んでて、幼馴染でした」

「幼馴染。そういう属性……」

「凛ちゃん、ずるいよね。そういう属性」

「ええい、属性属性うるせぇな。それでこいつは一旦大阪に転校したんですけど、また親の転勤でこっちに戻ってきて。昔から読書が好きだったんで、その影響もあってここに入部を希望したと思うんですけど」

「あらためて、佐々木香菜です。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる香菜。

 あとは平和的に握手なりなんなりすればよかったが、そうはいかなかった。

 茉莉花が香菜を試すように、こう挑発した。


「佐々木さん、だっけ? ――龍ちゃんとキスしたことはある?」 

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