第六話「外出」
あれから少しの間、庭は沼状態で、夜になってやっと乾き始めた。
夕方にゲルマーが泥だらけになって帰ってきたが、それが何故かは…………うん。
まあ、彼曰く、
「なんか庭がドロドロになってたんだが……」
だそうだ。
「はぁ、なんで私が領主の館へ行かんとならんのだ。」
―――――アランの魔導研究は庭の一件以降、ゲルマ―からの、『魔導百科』なるとても分厚い本のプレゼントによってさらに拍車がかかり、何か月も家に引きこもっていた。
前の世界でも狼の巣に引きこもっていたので、アランとしてはそれでよかったのだが、遂に親の堪忍袋の緒が切れてしまったようで、エルダから、行きなさいっ! と一喝されてしまった……。
「ほら、着いたぞ。降りろ。」
馬車を運転していたゲルマ―が、荷台に乗っているアランを抱き上げて降ろす。
アランは馬車から降りるとすぐに、辺りの景観を見渡した。
「これは……綺麗な所だな。」
領主の館を見た第一声がこれだが、それも頷ける程に美しい庭園で、噴水やベンチ、お茶を楽しむ場所もある。
その庭園の真ん中に石畳の道があり、その先にこれまた見事な屋敷があった。
「白い漆喰の壁に、青い屋根か。私の官邸とはまた違った良さがあるな。」
彼は、領主の館のあまりの美しさに、思わず感動の声を出してしまった。
「そうか、すごいか! ここの領主様は、モルダン・ガノス・カティーリヤ伯爵様と云ってな、とても聡明なお方で、領国内の産業や軍事力を五年間で十倍にしてくださった。」
ゲルマ―はいつになくうれしそうに語る。
それは置いておくとして、彼は今、「伯爵様」という言葉を出した。それはつまり、この世界の、少なくともこの国では封建制度を採用しているのだろう。
ということは、まだまだ統治機構は前の世界より遅れていて、その行政次第では革命も起こりかねないということだが……彼の話を聞く限りではまだ大丈夫なのだろう。
アランがこの国の政府やら何やらについて考えていると、ゲルマ―がアランの手を引いて、どこかへ連れて行こうとした。
「お父さんはここの裏にある軍司令部で働いてるんだ。」
百人隊長なのに司令部に通勤するとは、やはり一介の領主軍ということもあって、参謀の役職は作らないのだろう。
二人は庭園を横切り、そのまま屋敷の横の小道を通り抜けて、裏の大きな訓練場の小屋に入った。
「閣下、お待ちしておりました。そちらは……閣下のお子さんですか?」
二人が小屋に入ると、一人の青年が声を掛けてきた。
閣下ということは、この青年はゲルマ―の部下なのだろう。
「おいおい、息子の前で『閣下』はやめてくれよ。お前は堅苦しすぎていかん。」
ゲルマ―は青年の挨拶に苦笑しつつ答える。
「さて、はじめるぞ。」
なんと、ptが16になっていました。ブックマークも7件になってました。
私の駄文をここまで評価していただけるとは、まさに光栄の極みで御座います。