第五話「魔法」
「水、水……これだな…………水球と流水か。」
アランが水魔法のページを開くと、そこには二つの魔法―――水球と流水が書いてあった。
どちらにしようか迷ったが、取り敢えずどちらも試してみることにした。
「では先ずは水球から……大いなる水の聖霊よ、我の欲するは美しき水の球。今一度その力を我に貸し給え、水球!」
彼が詠唱を終えると、先程の火炎と同様に彼の手からは野球ボール大の水球が発射され、地面を少し濡らして消えた。
だが、それに伴って彼にはもう一つのことが起こった。
「ぬおっ! な、なんだ!?」
急に彼の両腕がしびれ始め、両肩から両腕に紫色の線が一本ずつ、じわっと浮かび出てきたのだ。
更にその線を辿ると、胸の中心にある五芒星の紋章が入った魔方陣につながっていたのだ。
「お、おおう……何だこれは? あ、確か本にこんなのがあったぞ!」
大急ぎで本の前文を確認すると、確かに載っていた。
・神の加護を受けたものは、一番最初に魔法を使用した時、又は二、三度目に使った際、激痛に襲われ、胸や腕に紋章や線が浮かび出る。
「ふ、ふはははは! 私は神の加護を受けていると? つまり、無詠唱で魔法を使えると言うのか。」
実はあの詠唱が面倒臭く、とても恥ずかしかったので、これはかなり助かった。
では試してみよう。と、アランは庭の草に向けて手をかざしたが、やり方がわからないので、心の中で流水を強く念じてみた。
すると、彼の手からは信じられないほどの水が出てきて、辺り一面水浸しに。
家の中にも多少入って行ったようで、皿を洗っていたエルダが慌てて出てきた。
「ちょっとぉ、何よこれぇ~って、うわっ!」
「あ、いや、母さん、これはですね……」
彼女は庭が沼みたいに変わってしまったのを目撃し、唖然とした。
アランは一人ポツンと泥濘の中に立っているわ、庭は全体的に滅茶苦茶になっているわで、最早パニック状態であった。
「アランちゃ~ん? 何があったのか説明してもらえるかしらぁ?」
エルダは不敵な笑みを浮かべた。
* * *
「―――ええ! アランちゃんが加護を!?」
「はい。それで、ちょっと試しに流水を放ってみたら、こんなことに……」
エルダの言葉に、アランは肩をすくめながら小さく答える。
…………一国の総統までやっていた私が、この一人の女性の言葉に、まさかこんなに小さくなるとは。きっとチャーチルがみたら爆笑ものだろうなぁ。
アランが情けない気持ちになっていると、エルダは目を輝かせながら言った。
「凄いじゃない! これはお父さんに言って魔法の本を買って貰わないとね!!」
いつも通りの反応である。
普通なら、もっとこう、何かあってもいいだろうに、この母親は、何かがおかしかった……。
普通の人なら化け物扱いするところですが、『運よく』アランの母親はどこかがおかしく、アランを逆に神童扱いしてくれます。
運が良かったのですよ、運が。〈アイツ〉とか全く関係ないですよ~。