閑話其之一「本」
閑話はクッソ長かったり、短かったりと、変則的にやっていきます。
母親に、話せることがすっかりバレてしまった総統は、意外と好反応でよかった……、等と安堵していた。
実際、母親は総統の言葉を聞いた時、少しの間ぽかんとしていたものの、その後は、すごいだのなんだのと自分の子供がとても発達していることに喜んですらいた。
これは予想でしかないが、普通ならもっと怖がったりしただろう。
―――――そうして総統がほっとしていると、母親が口を開いた。
「あの、今、昔の事がどうとか言ってたけど……何のことなの?」
なかなか痛いところを突いてくる女性だな……。
総統は久しぶりに心の声を出した。
と言うのも、彼は戦線が徐々に押され始めてから今までの間、ずっと心の余裕が乏しく、あまり心の声を出したりなどが出来ないでいて、ほぼ無心状態だった。
「いや、何でもないので、気にしないでください。」
「あ、そう。じゃあ、なんでそんなに上手に喋れるの? 普通は、まま、とか、ぱぱ、とかじゃない?」
一難去ってまた一難、彼女は続けてもう一つ、質問を投げかけた。
さてどのように言い訳をしたものか…………。
総統は、彼女の質問への返答に困ってしまい、言葉を懸命に模索した。
「……なんだか自然に喋れるようになっていました。自分でもよくわかりません。」
「ふーん、珍しいこともあるものねぇ。」
なんとか上手く受け流せたようで、彼女は総統を持ち上げ、よし、だったら、家の中を見て回ろうか。と、部屋の外に出た、
部屋を出るとすぐ向かいに扉があり、そこのタペストリーには、リビングと書いてあった。
彼女はそのドアを開け、中へと入る。すると、テーブルやらキッチンやらが有り、本棚なんかも置いてあるようだった。
「あっ、すいません、そこの本棚が見たいです。」
総統は、本棚に何の本が置いてあるのかに興味を示した。
国際情勢や、今住んでいるこの国の事などを一通り調べるという意図も無くはなかったが、割と純粋に、異世界の書物とやらを見てみたかったのだ。
「え? もしかして文字も読めたりとか……するの?」
母親は総統の言葉に耳を疑ったようで、目を丸くしていた。
「はい。まぁ、一応読めます。」
「ええええっ!? どこまで凄いのよ! やっぱりアランちゃんは天才だわ。」
当たり前である、乳幼児の時点で言葉が話せて読めたら、そりゃあ天才と呼ばれても仕方がない。
総統は、心の中でそんな事を零しつつ、本棚へと近づいてゆく。
「地学、歴史、英雄譚に……ほう、これは、『魔導入門』か…………え゛、魔導だと!?」
総統は、一番端に置いてあった本の題名―――『魔導入門』の、『魔導』という所に目を奪われた。
魔導、この言葉は、前の世界では空想のそれでしかなかったのだが、なかなかどうして、異世界は面白いところである。
総統はその体中に込み上げるロマンで、今にも破裂しそうになった。
「あー、それでは、この本をちょっとお借りして、もう部屋に戻ってもらって良いですか?」
総統は狂喜乱舞した……い気持ちを必死に抑え、母親に頼んだ。
「あら、もう良いの? じゃあ、もう戻っておっぱいの時間にしましょ。」
「それについてなんですけど、スープか何かにしてくれませんかね?」
総統の懇願に、彼女はキョトンとしてしまった。
何を言ってるんだろう? みたいな表情をしている。
「いや、その、スープが飲みたいんです。」
「え? ああ、うん。いいよ。じゃあ、作ってくるから、お部屋で良い子にしててね。」
そういって、彼女は私を部屋に置き、先程のリビングのキッチンへ向かおうとしたが、総統はある事に気が付き、咄嗟に彼女を呼び留めた。
「そういえば、私の名前はアランですが、お母さんの名前は……何ですか?」
「えーと、私の名前は、エルダよ。姓はアーリアス。だから貴方は、アラン・アーリアスよ。」
それだけを残し、彼女は部屋を後にした。
アーリアス、なんだかアーリア人を意識したような名前だ。
まぁ、そのあたりも〈アイツ〉が設定したのだろう。覚えやすい名前で有難い。
―――――かくして、アドルフ・ヒトラー総統は、アラン・アーリアスと云う一人の男児となり、この世界にてその人生という名の物語を、再度、紡ぐ事となったのであった。
「この世界ではぜひとも、平穏な生活を送りたいものだがね………………。」
総統、もといアランの最後の言葉を見たとき、貴方はどう思ったでしょう?
「フ」の付く言葉が出てきた貴方は大正解。(フューラーではないですぞ?)