第二話「アイツ」
拙い文章で申し訳ないです。
「んお、もう朝……ではないな。」
総統の視界に広がるのは、一面の黒い世界。だが、暗いわけでは無く、地面、景色、空に至るまで、全てが黒で統一されているだけで、光は一応ある。
その証拠に、総統の目の前で一人の男がソファーに寝そべっているのがはっきりと見える。
その男の服装はなんとも奇妙なもので、上半身は軍服を着用しているのに、下半身は鉱山労働者のようなズボンを着用しているのだ。
「久しぶりだな、マインフューラー。」
その男は総統の姿を見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ口を開いた。
それを見て総統は顔を歪める。なぜなら……総統はこの男に対して、あまりいい印象が無いからだ。
―――――今でも鮮明に思い出せる…………そう、あれは私が一次大戦中、敵の攻撃によって右股関節に大怪我をし、野戦病院のベッドの上で気を失っていた時の事だった……。
「うう、ん……ってなんだここは!?」
私も、最初はこの不思議な景色に戸惑っていた。それで、私がまごまごしていると、後ろから声がしてきて、私は半ばパニック状態になって振り向いた。
そうすると、そこにこの男が座っていた。〈アイツ〉は私の顔を見るなり今のように不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ、ふふふっ、ふははははっ!!」
「ひっ!? な、なんだお前は?」
なんだか良く判らないが笑っている〈アイツ〉を私は当初、狂人か何かだと思った。
……だが、それは違った。
奴は私に、ある一つの提案をした。
「なあ、お前さん、権力とか欲しくねえか?」
そう、〈アイツ〉が私をドイッチュラントの総統にしたのだ。
―――――まあ、こんなことがあり、私は〈アイツ〉から助言をもらったりしていたのだが、頼ってばかりいたら、ソ連には押され、西からも米英が迫り……と、敗色が濃厚になり、私は遂に自殺せざるを得なくなった。
という訳で、総統は男に対して不信感を抱いていた。いや、不信感しか抱いていないのだ。普通の人間ならば、全く信じられなくなって、殺意すら芽生えるところである。
「それで、今度は何の用だ?」
返答次第では殴ってやろうというような心構えで、総統はゆっくりと尋ねる。
それに男は笑いながら答える。
「いやあ、前の世界では悪かったな。」
「何!? 『悪かった』だと? 貴様の所為で多くの臣民が危険にさらされ、多くの若い将兵が死んだのだぞ!? それをわかっているのか!!」
男の返答を聞いた総統は思わず叫ぶ。
「まあそう怒るな。確かに多くのドイツ国民が死んだ。だが、悪いのは俺ではない。実際に殺したのはボリシェヴィキ共だろう? 頭を冷やせよ。」
「む、むぅ……。」
総統は男の話があまり筋が通っていないことを分かりつつも、もうどうしようもないので口を噤んだ。
「さて、本題に入ろう。単刀直入に言うと、お前さんは異世界に転生した。そいつはお前も薄々感づいているだろう?」
総統は男の話に、そうだな。と頷く。
「うむ、だが、よくよく考えてみたら、あの女性はドイツ語を喋っていなかったか?」
そう、あの女性は確かにドイツ語を話していた。だからこそ、総統は自分が女性から『アラン』と呼ばれていることが分かったのだ。
「まあ、そこは俺の良心で、せめて言葉ぐらいは援助してやろうと思ったわけよ。」
「貴様に良心などというものがあろうとはな。貴様が良い奴だったら私なんて聖人君子だぞ?」
どうやら総統にも心のゆとりが出来てきたようで、軽い冗談なんかを飛ばしている。
だが、と男は続ける。
「お前さん、上手く喋れなかっただろ? そこは気にするな。なにせお前さんはまだ赤ん坊だからな。少しばかり補正を掛けさせてもらっている。でもまあ、お前さんの体は一歳ぐらいになるし、補正は外してやるから、あまり心配するな。」
総統は、自分がやっとまともな言葉を話せるようになると知り、胸をほっ、と撫で下ろす。
「さて、今回はここまで。もうすぐ朝になる。またその内現れると思うから、精々好き放題やることだな。」
そういって男はこの空間ごとどこかへ消えてしまった…………。
〈アイツ〉は本当に居たらしいです。
総統が、部下にアイツについて話したことがあり、その話がネットにあるので、ぜひともggって、どうぞ。