プロローグ
帰ってきたヒトラーっていう小説がありましたけど、決してあれのパクリ的なものではないです。
一九四五年、独逸第三帝国 首都ベルリン 総統官邸地下壕
・・・・・・暗く、じめじめとしていて、なんとも息苦しい壕内は、陰気なオーラで埋め尽くされている室内は、さながら、水槽の中にインクを溢したようだった。
ボリシェヴィキ共の砲撃によって、時折電灯が点滅する中、一人の男が軍議室で怒号を飛ばしていた。
「イワン共が十数キロ先から砲撃? 一体国防軍は何をやっていたのだ!?」
その男は鼻の下に四角く髭を生やし、髪は少し乱れているものの、きちんと一九分けになっている。
――――――そう。この男こそが、二次大戦の主役、アドルフ・ヒトラー総統閣下である。
「こうなったら最終作戦を発動する! このベルリンを最前線とし、インフラや工場などの施設をすべて破壊するのだ!」
最終作戦、それはどうしようもなくなった時に、やけくそ気味になって暴れまわるという簡単な計画であるが、まずもって実現は不可能だろう。
ボリシェヴィキが砲撃をかけているのだ。その中を正規軍ないし民兵が駆け巡り、爆弾等をしかけ、ご丁寧に空爆まで行うというのは、ド根性に定評のある極東の皇軍でも無理だ。
某船坂みたいな陸軍兵と、ルーデル閣下みたいな空軍兵が居れば或いは・・・・・・などと考えないでもないが、ただの妄想に過ぎない。
「いえ、閣下・・・・・・それは出来ません。」
一人の陸軍将校が口を開く。
この男は、ハンス・クレープス。総統への忠誠心と合理的判断力、その他良識を持ち合わせた、いい軍人である。
「黙れ! 元をたどれば貴様ら無能共のせいだぞ! アホ! 間抜け! 劣等血族!」
総統は滅茶苦茶に叫ぶ。戦局が悪くなりすぎて、頭がおかしくなっているのだろう。
そんな総統を見かねて、傍らに立っていた宣伝大臣、ヨーゼフ・ゲッベルスが優しく、なだめる様に総統に言う。
「閣下、彼らも尽力してきたのです。数的劣勢を補うために、様々な戦略や兵器の運用ドクトリンを考え、陣頭に立って指揮をしてきたのです。そんな彼らに、偉大なるドイチュラントの総統たる貴方様は罵りの言葉しか掛けないというのですか?」
さすがの総統閣下でも、この言葉にはぐうの音も出ない。いや、出せないのだ。
総統はゲッベルスを信頼している。何故かと言うと、それはゲッベルスが総統の心理を理解しつつ発言しているからである。
「・・・・・・・・・・・・すまなかった。そうだな、悪いのはイワンやユダヤ共だ。」
暫くの沈黙の末、総統が静かに先程の失言を撤回した。
だが、と総統は続ける。
「この帝国はもう終わりだ。・・・・・・シュタイナーや第一二軍にはもう攻撃能力は無いらしいしな。だから、君たちは逃げてくれ。イワンに捕まったら何をされるかわからない。」
総統の言葉に、軍議室にいる者全員がざわめく。
「か、閣下はどうなされるのです?」
「ハハハッ、決まっているじゃないか。死ぬんだよ。私はこの国の最高責任者だからね。止めてもしょうがないぞ? まあ、だからと言って止めてくれなかったら悲しいがね・・・・・・。」
優しい顔でそれだけの言葉を残し、閣下は自室へと戻って行った。
―――――総統の自室で、つい先ほど結婚を済ませた、エヴァ・ブラウンと総統は一緒に自決した。
それからは、ハンス・クレープスとヨーゼフ・ゲッベルスが、総統の政治的遺言により、それぞれ臨時大統領と首相になった。
それから程なくしてナチ党は崩壊。ドイツは東西に分割された。
一方で、総統は死んだと思われていたものの、どうやら違ったようである。
(ううん・・・・・・むっ? ここはどこだ?)
話の切り方がへたくそで申し訳ないです。