彼女が遠くを見るいくつかの理由
今日も私は学校が終わるといつもの公園に行き、ベンチに座ってボーッと遠くを見る。
始めてから二日間ぐらいは、何もないこの景色が好きでなんとなく眺めていた。
ただ、それも数日で飽きる。
そのあとは惰性的に、大勢の人の中で合わせることがなんとなく疲れて、ここでボーッとしていただけだ。大した理由なんて無い。目の疲れの話はあくまで、ついでの理由だ。
私はいろんなことを想像するのが好きで、その世界に入ると周りとズレたことを言ってしまう。まだ高校入学して一か月。クラスの中でそれがバレて友達が離れていくのは嫌だ。
日座君にはあぁ言ったが、私はクラスであまり会話をする方じゃない。まさか、そこに気づかれていたとは思わなかった。
一週間過ぎたぐらいから、ここでボーッとしていると目の前を通り過ぎる人に見られている気がし始めた。毎日、毎日ここに人が座っていれば視界に入るだろう。
そういう奇異の目のようなものはあまり気にしない。私を見てくるそういう人は、所詮は他人なのだから。
でも、もし、そういう人たちの中で偶然目が合って、偶然近づいてきてくれて、偶然私の話を変だと思いながらでも聞いてくれる人がいたら?
私はそんな都合の良い妄想を思いついた。
特別期待していたわけではない。そんな都合の良いことは起こらなくたって普通だ。身勝手な話だというのは分かっている。
ただ、思いついてしまった。だから最近までは、そういう理由で遠くを見ていた。
今日もボーッと遠くを見ていると、公園の入り口に日座君が見えた。
私は少し不安になるが、今日も日座君はこちらに歩いてきてくれる。
「こんにちは」
そして今日も日座君は恐る恐る挨拶をしてくる。ここで初めて、私はほっとする。
「こんにちは」
私は腰を上げて、彼のスペースを作る。
ちょっと距離を開けて、日座君は座った。
「今日は日座君、早かったね」
「用事もなかったからね」
「そっか」
私は遠くを見ながら、今日の話題を考える。どんな話をしよう。もし、途中で呆れられたらどうしよう。明日来てくれなくなるようなことがあったら嫌だな。
「久語さん、また足プラプラさせてるね」
「ほんとだ」
私は指摘され、足を止める。
「今日は駄菓子無いんだね」
「昨日、いっぱい食べたからね。弟食べてくれなかったから、ちょこちょこ食べていかないと」
「大変だ」
「大変なんだよ、本当に。――明日持ってこようかな」
「お手伝いはするよ」
日座君はおかしそうに笑った。
会話が途切れ、私はまた遠くを見た。
見慣れた帽子の女性が公園の前を通り過ぎて、会釈をしてきた。私はそれに返す。
「どなた?」
「前話してた、駄菓子屋さんの常連さん」
「なるほど」
ねねこさんを見て、私は今日の話題を決めた。絶対に結論が出ない……と思う、くだらない内容だ。
「日座君、猫好き?」
「まぁ、人並みに」
よかった、嫌いだったら会話が終わっていたかもしれない。
「どうして猫ってかわいいんだろうね」
「……どうしてか。また難しいうちは飼って無いから画像とか動画での印象なんだけどね、自由な感じが良いんだろうね」」
日座君はどうしてだろう、と言いながら考えて、話を続けてくれる。
――でも、もし、そういう人たちの中で偶然目が合って、偶然近づいてきてくれて、偶然私の話を変だと思いながらでも聞いてくれる人がいたら?
そんな身勝手な奇跡が起きるなら、私はその人と友達になって、くだらないおしゃべりをいっぱいしたいと思う。
最近の私は、そう願いながら遠くを見ている。
これにて終わりとなります。
ありがとうございました。