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(株)ドッペル

作者: 束田慧

 ああ、こんなところにまだ教会が残っていたとは、何たる幸運か。


 神父様、私の罪をお聞きください。

 私は以前、様々なメイクを請け負う会社を経営しておりました。株式会社ドッペルという名に聞き覚えはございませんか?

 一般女性の簡単なメイクから映画の特殊メイクまで、それはもう、多くのお客様からご贔屓にしていただいておりました。当時は業界最大手ともてはやされて、私はあぐらをかいていたのかもしれません。


 栄光は長くは続きませんでした。

 十数年前、とある同系列の会社ができてからのことです。その会社は異例の早さで支店を増やし、たった数年で我が社に追いつき、そして追い抜いていきました。

 当然、我が社も様々な業務展開で対抗しようとしましたが及ばず、業績は右肩下がり。

 打つ手を失った私は、裏の仕事に手を染めてしまいました。

 ある日、人相の悪い男が一枚の顔写真を片手に、「この顔にしてくれ」と言ってきたんです。しかも、金に糸目はつけないから、できるだけ本人に見えるように、そして他言無用で頼む、と。

 すぐに悟りました。この男は、手に入れた顔で何らかの犯罪を犯す気なのだと。

 それでも、限界まで追い詰められていた私に選択肢はありませんでした。これを期に裏のルートを構築してやろうとさえ思ったほどです。

 この日から社名の意味は、我が姓ドッペルマイヤーからドッペルゲンガーへと変わりました。

 そして、一年前。我が社の最期のお客様は、大統領の顔を欲したのです。

 これが私の罪の全て。こうなってしまったのは、私の責任なのです。



 貴方の罪、しかと聞き届けました。

 実は私も、自分の犯した罪の重さに耐えきれず、全ての責任から逃げ出して、こうして神父をやっているのです。


 かのエイブラハム・リンカーンが、暗殺される数日前にドッペルゲンガーを見たという話をご存じですか?

 ドッペルゲンガーは死の予兆……そんな馬鹿げた迷信を信じる者は少ないでしょう。しかし、実際に見てしまったら? そして、死神のごとき出で立ちで呪いの言葉を囁いたら?

 多くの者は恐怖し、絶望するでしょう。己の運命を呪い、果ては世界を呪う者もいるかもしれません。


 自暴自棄になって第三次大戦の引き金を引き世界人口を半減させた、人類史上最悪の大統領がここにいるように。

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