Opening
Prologue
そのSNSに流れた殺害予告テロップは、彼ら以外に本気にした者はいなかった。その数行の文は、次々と書き込まれる無数の「情報」によって、二度と画面に浮上することはなかった。
大抵の人間は、他人の書き込みを一から十まで真剣に読んだりはしないし、例え書き込みに気がついた人間がいたとしても、たちの悪い悪戯だと思っただろう。不謹慎だと怒る人すらいるかもしれない。
彼ら-と言っても、二人の少年と一人の少女が、その書き込みを本気にしたのは、彼らが他の人間達より、少しだけ多くのことを予測しようとしていたからだ。
つまり、彼らは知っていた。
これから先の未来の話を。
あるいは、もっと現実的に、自分の少し先の人生を。
先のことを予測するなど、不可能ではないのか?
何も見えないならば、人はそう言うだろう。
しかし、もしも「見える」ことができたのなら-、
人は少しだけ、残酷になれる。
だからこれは、きれいな話じゃない。
『明日の午後3時、人を殺そうと思います。
場所は、Y公園の男子トイレ。
殺す人の名前は、鑑七瀬。』
1
偶然というものは、忌まわしいものだ。
往々にして、人間を混乱の渦に導き巻き込んでいく。
しかし、彼女はまだ、その偶然を知らずにいた。彼女はいつもの窓辺でぼうっと頬杖をついていた。
市内の公立高校。偏差値は中の上くらいであり、同等の偏差値の高校に比べて、校則が緩いことが有名だった。
そのわりには、際だった問題児がいるわけでもなく、豊かに校舎を囲む深緑が穏やかな校風を感じさせる。
その少女もまた、その中に緩やかに溶け込んでおり、時々周辺でまばらな笑い声があがる。
「ねえ、ほんと奇遇だよね!」
そんな彼女に、甲高い声がふりかかる。
顔立ちの整った、少々猫目の少年だ。中肉中背、よりはやや細め。柔和な笑みを浮かべているが、その頭髪は、赤キャベツのような濁った赤色に染められている。
少女の知り合いなのか、軽薄な口調と雰囲気を漂わせ、隣の席にドッカリと腰掛けた。
少女の周囲の空気はそれだけで、一変する。しかし、少女は全く動揺せず、むしろ同じような軽々しい口調で、少年に尋ねた。
「何のこと? セナ?」
セナ、と言われたその金髪の少年は、肩をすくめて歪んだ微笑みを浮かべた。
「君が、昨日殺された男と同じ名字だってことさ」
初めての投稿なので、ドキドキしています。
気楽に読んでくれたら嬉しいです。