水森明花と各ルートⅣ(鷹藤晃ルートⅠ・告白(前編))
どれぐらい、そうしていたんだろう。
「水森」
ぼんやりと外を見ていたら、声を掛けられた。
いつからそこに居たんだろう――そう思いつつ、声の主を確認するかのように、恐る恐ると言った様子で目を向ければ――
「鷹藤、君」
何とか声の主の名前を呼べば、意外そうな目を向けられた。
「あー、時間来ちゃった感じかな?」
「いや、時間はまだ大丈夫だ」
彼にしては珍しく、何か言いにくそうにしている。
だが、彼の中で何らかの結論が出たんだろう。
「座らせてもらうぞ」
「……うん……?」
私に許可を貰う必要なんて無いと思うんだが……
「座ってから言うことじゃないと思うけど、仕事はいいの?」
「終わらせて戻るところだったから良い」
本人がそう言うのなら良いんだろうけど、何か用だろうか。
いや、話を聞く約束はしたから、今しても別に構わないんだけども。
「……水森」
「はい」
「水森は……水森で良いんだよな?」
……おや。
「うん? 明花は私だけど?」
少しだけはぐらかしてみる。
「そうか。それじゃ、『水森』が聞いている前提で話す」
多分、用があったのは『飛鳥』の方なんだろうけど……
「あー、うん。君が本来話したいのが『飛鳥』だっていうのは分かったし、飛鳥じゃないと多分困るっていうのも予想できた」
「……」
「でもね。悪いけど、それは無理だ」
私が『誰』なのかを聞いてこずに、鷹藤君はこちらの話を遮ることなく聞いてくる。
「今は私が君と向かい合っているからね」
飛鳥が逃げたという可能性は、なるべく出してはいけない。
これでも別人格なのだから、勝手に私が出てきたんだと思わせないと。
「だから、あの子の代わりに私が聞くのは駄目かな?」
「……演じている、とかではないんだな」
「そもそも、あの子に出来るわけないでしょ」
もし、飛鳥にそんなことが出来るなら、明花は存在していないだろう。
「とりあえず、私が飛鳥でないことを薄々にでも感じ取れたことに拍手をしてあげよう」
彼の表情が微妙に変わるが、私は止めるつもりはない。
「初めまして、鷹藤晃君。私の名前は水森明花。明るい花と書いて『明花』って読みます。そして――」
にっこり笑みを浮かべる。
「水森飛鳥の裏人格です」
さて、彼はどう出るかな?
☆★☆
「……裏、人格」
私の言葉を復唱する彼を見つめる。
『明花』という存在を、彼は自分の中でどう理解し、納得させるのやら。
「――なるほどな。雰囲気の違いとか、少しだけ不思議だったが、解けてすっきりした」
「それなら良かった」
どうやら、『何となく違う気はする』とは思っていたらしいが、はっきりと『これだ!』というようなものが無かったのだろう。
「それで、俺は何と呼べば良い」
「何でも良いよ。今まで通り、『水森』でもいいし、下の名前で呼んでくれても良いし」
基本的に、私も『水森』ではあるので、呼ばれれば反応することは出来る。
「そうか。なら、『水森』で通そう。その方が変に疑われたりしなくて良さそうだしな」
「ん、分かった」
さて、ここから本題だ。
「それじゃ、このまま君が話したかったことも聞こうかな」
「そうだな。話せるうちに話しておきたい所だが……ところで、お前は水森の異能は使えるのか?」
使えないことも無いんだろうけど……と思ったところで、試したことが無いな、と気付く。
「そういう風に言うってことは、外に聞かれたらマズい内容っぽいね」
「そうだな」
「じゃあ、ちょっと待って。確認してみる」
軽く息を吐いて、試してみる。
「……」
「……」
「……」
「……」
――音が、外部に洩れなきゃ、良いんだよね。
……そうだね。そのぐらいなら……
「……うん、行けた」
「そうか」
少しだけ飛鳥に協力してもらった感は拭えないけど、いくら身体が同じでも、私と飛鳥で人格が違うように、使う異能もまた違うんだから、どうしても出来ることと出来ないことが出てくるのは仕方がない。
「でも、あまり長く持たないから、一時間ごとに張り直すことになりそうだけど、それでも良い?」
「逆に、そこまで話すような内容じゃないし、もし時間が掛かっても、答えを聞くのは明日以降になるだろうから、問題ない」
「そっか」
彼が何を話そうとしているのかは分からないが、本人が時間が掛からないと言っているのなら、多分大丈夫なんだろう。
『答えを聞く』ことになるっていうのも、多分、私の反応次第なんだろうし。
「話したいことはある。だが、その前に二つばかり確認させてくれ」
「何かな?」
「水森は――二人は、自分たちの『経験』や『人間関係』は共有してると判断して良いんだよな」
「いいよ」
人間関係に関しては、支障を来してはいけないだろうからと、飛鳥がよく一緒にいる人たちに関しては私も把握しているし、把握するようにはしている。
「そうか。それなら、遠慮なく聞けるな」
今度は、鷹藤君がまるで緊張を解すかのように、息を吐く。
一体、何を聞くつもりなんだ。
「お前や御子柴は――いや、そもそも『御子柴雪冬』という人を、知ってるか?」
その名前が出た時――私の頭は驚きに染まったのである。




