水森明花と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅸ(『水森明花』という存在)
どのような世界であっても、私――『水森明花』という存在は特殊である。
元々は大きなショックを受けた飛鳥のもう一つの人格として生まれたのだが、得に何か言われることもなければ、運良く家族や友人たちにその存在を認められ、こうして存在している。
「……」
人格が違うのだから、記憶の共有が出来てなくて当たり前だが、ぱっと見た感じだと同じ人間なので、飛鳥と最低限の記憶の共有をしておこうと、ノートを通してやり取りを始めた。
『私は明花。明るい花と書いて、明花』
『私は飛鳥。飛ぶ鳥と書いて、飛鳥だよ』
それぞれの出だしはそんな感じで始まった。
そこからは授業の愚痴だとか、誰々に何て言われただとか書いて、お互いそれぞれの人間関係を壊さない程度の、最低限知っておくべきことを記していった。
明花という存在は、飛鳥が傷ついた時、表に出る人格である。
だが、飛鳥はいつからか明花が傷つくことを考慮するようになった。
気にするなと言っても、気にするのが飛鳥である。
故に、飛鳥が傷ついていないときでも、表に出るようにすれば、みんなには最初は驚かれたけど、事情を話せば納得してくれたし、それ以降、時々入れ替われば、「久し振り」と声を掛けてくれるようになった。
『……明花?』
これもいつからなのかは覚えてないけど、物凄く驚いたことがある。
それが――鏡を通じての、飛鳥との会話である。
どういうことなのか、原理は不明だが、この手が使えるのであれば使うまでと、他の鏡でも試した結果、鏡であれば会話が可能なようで、私と話すため用として、飛鳥は手鏡を持ち歩くようになった。
それは、今でも変わらなくて、世界を移動しても、時々話したりしていたけれど――
「……あのバカ」
大きなショックや悲しみを受けた飛鳥を鏡で見ると、後ろ姿か何も写らないの二択であり、現に、今も後ろ姿しか見えていない。
あの幼馴染は、どれだけのショックをあの子に受けさせたと思っているんだろうか。
『……雪冬? 誰のことだ?』
あんなことを言った幼馴染の声を思い出す。
正直、あの場に居るのが私だったなら、ぶん殴っていたことだろう。
春馬に忘れられたとなれば、私はショックだし、飛鳥なんて引きこもり期間が通常よりも長くなりそうで。
「さて、まずはどうしようかね」
夏樹には早々に思い出してほしいところではあるが、記憶障害になられても困る。
だからといって、何もしないわけにも行かないので、しなければならないことを洗い出し、策を練っていくことにする。
「まあ、あれは放っておくとして……確認作業からか」
クリスマスプレゼントとして雪冬さんの元へ連れていくのはほぼ絶望的なので、とりあえずこの問題は横に置いておくとして。
まずやらなきゃいけないのは、私の異能の確認からだろう。
飛鳥は『調律・音響操作』だが、人格が変わったぐらいで、異能は変わるのかどうかを確認しなければならない。
「……ふぅん」
何度か試行錯誤してみれば、状況の把握が少しばかり出来てくる。
「これは、感謝しなきゃ」
使えることを、ね。
「ま、これで何かあったとしても、対処できる……として」
とりあえず、女神に私という存在を示しつつ、宣戦布告みたいなものをしなくてはならない。
私は飛鳥みたいに優しくするつもりはないし、手を抜くつもりはない。
「さぁて、私の大切な人に手を出したんだから、覚悟してもらわないとね」
とりあえず、飛鳥が引きこもってる間に、出来ることはやっておこう。
ああ――これから、驚きに染まるだろうみんなの顔が楽しみだ。




