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水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅷ(可能性が確信に変わるとき)


「ねぇ、御子柴君(・・・・)。そろそろ一回ぐらい、まともに話そうか」


 夏樹(なつき)に避けられ続けて、休日も挟んで、早一週間。

 こちらにも『我慢の限界』というものがあるので、それが到達ギリギリになる一歩手前で(笑顔で)話し掛けてみたのだが――


「……あ、ああ、そうだな」


 何故、みんなして顔を引きつらせているんだろうか。


   ☆★☆   


「……」

「……」


 心当たりが有るのか無いのか、視線があちこちに泳いでいる幼馴染を前にしているわけだが、桜峰さんたちは桜峰さんたちでこちらが気になるのか、少し離れた場所からこちらをちらちら見てきている。

 というか、生徒会役員全員で様子見に来るとか、どういう状況だよ。

 桜峰さん、私が見てるのに気付いたことはともかく、『がんばれ!』じゃない。


「……はぁ」


 私が溜め息を吐けば、一瞬びくりとなりながらも、夏樹は夏樹で目を合わせるどころか、こちらに目を向けようとすらしない。

 そもそも、互いの逃げ場を無くすために、食堂に移動した訳なんだけど、話したいことが話したいことなため、聞こえる音とか声は音響結界(私命名)でぼやかしていたりする。


「それで、話したいことだけど」


 別にこのまま無言でも良いけど、時間が勿体ないので、本題に入る。


「この前、風弥(かざや)と話した」

「……そうか」


 ……この反応、風弥のことは覚えてる?


「それで、夏樹にも会いたいって言ってたから、伝えてる訳なんだけど」

「……悪い」


 正確なことを言えば、風弥はそんなこと口にしていなかったけど、それでもそんなことは思っているだろうから。


「……それだけか?」

「うん?」

「いや、他にも何か言ってくるかと思ってたから……」


 どうやら、勘づいてはいたらしい。


「言ってほしいの?」


 言いたいこと、全て。


「それは……」

「さっきさ、夏樹は謝ってきてたけど、何に対しての謝罪なのかな?」


 それは、さっき謝られたときに思ったこと。


「風弥の伝言を私に言わせたことについての謝罪だったら、それは間違いだから」


 あの場に夏樹がいなかったから、私がそうなんだろうなと思って伝えたわけだし。

 まあ、風弥なら、これぐらいなら許してくれそうというのもあるんだけど。


「それと、いい加減にしないと、小夜(さや)にキレられても知らないから」


 本当、小夜に手を出させたくはないけど、そうなりそうだから怖いところなわけで。


「……そうだな。さすがに殴られるのは避けたいしな」


 あの子、平手打ちじゃなくて、グーで容赦なく殴るからなぁ……


「だったら、気を付けなよ」


 私は何も言わないけど、風弥から話が行っていたら、それはそれで仕方ないと思っている。


「……」

「……」

「……」

「……」


 そのまま、互いに止まっていた昼食を進める。

 今回は弁当を作る時間など無かったので、学食である。

 出費が気になるところではあるが、午後の授業に支障を(きた)しそうなので、きちんと食べることにしたのだ。


 そして、食べ終わり、食器を返して戻ってくれば、話し終わったと判断したんだろう桜峰さんと+αが、そこにいた。


「あ、飛鳥(あすか)


 私に気づいて、戻ってきたと言わんばかりの彼女がつつつ、と側に寄ってくる。


「話したいことは話せた?」

「一応は」


 話したいことの本命は話せていないけど、「そっか」と桜峰さんは良かったねとも言いたそうな表情で返してくる。


 ――この世界は今、桜峰さんを中心に回っている。


 だったら、だったら、もしかしたら――……


「……」

「……?」


 私が数秒ばかりじっと見ていたからなのだろう。彼女は不思議そうな顔をする。

 正直、桜峰さんの中に『あの人』との記憶がどれだけあるのか、残っているのかは不明だけど、それでも彼女が居合わせてくれているのなら。


「ああ、そうだ。言うの忘れてた」


 夏樹に向かって、今思い出したかのように『あの件』を口にする。


「今度、雪冬(ゆきと)さんに会いに行くから」


 たとえ、元の世界で雪冬さんがどんなに不安定な立場であろうと、それがどういう意味であっても、夏樹の中に少しでもその記憶があるのなら、何らかの反応を示してくれるはずだ。


 ――お願いだから、反応を見せて。


 私のことは、どれだけ抜け落ちても構わないから。

 だから、雪冬さんのことは覚えておいてほしい。

 だって、そうしないと――……


「……雪冬? 誰のことだ?」


 ……おい、マジか。

 いや、予想はしていた。していたけども。


「――ああ、そう」


 一体、自分が今どんな顔をしているのか、分からない。

 涙を流してる感覚が無いから、泣いてはいないはずだ。

 でも、桜峰さんたちが驚いていたり、ぎょっとしていたりするのを見ると、多分、普段の私ならしないような表情をしているのだろう。


「咲希、ごめん。先に行く」

「う、うん……」


 そのまま、移動を再開させる。


 ああ……ああ、ああ、ああ、ああ、ああ!!

 今すぐ、今すぐにでも、どこかに行って叫びたい。

 でも、真面目な部分の私が、誰もいないであろう空き教室へと足を進める。


「……っ、」


 あれは、違う。

 意図的に自分から忘れたんじゃない。

 だとすれば、どうしてあんな発言をしたのかなんて、原因は一つしかない。


『――次は、()が聞いてみようか』


 たとえ、雪冬さんがこうなることを、こうなっていたことを予想できていたとしても、こんな結果を伝えるのなんて、残酷ではないか。


『私と飛鳥、今のあいつに見分けられるのかな?』


 夏樹は少なくとも、明花(あきか)が居るのが当たり前になってからは見分けてきたから、もし見分けることができれば、それは――夏樹が明花のことを、覚えているということになる。


「そうだね。でも、もし忘れてたら?」

『ぶん殴る』

「ははっ、明花らしいねぇ」


 明花は時々手が出るタイプではあるけど、そこに正当さが無い限りは出したりはしない。


『だって、幼馴染(わたしたち)のことは覚えておきながら、実の姉のことは忘れるなんて……雪冬さんに何て言えばいいの』

「……」

『だから、次は私の番。あんたには私がいるけど、雪冬さんには夏樹が居た方が良いだろうから』


 雪冬さんにもパートナーとなる人は居たんだろうけど、その人が今、何をしているのかなんて分からない。

 だから、私たちが知る『雪冬さんの知り合い』は夏樹しかいないわけで。


「ごめん、任せる」


 正直、今日中には立ち直れないだろうから。


「――うん、任されました」


 さて、状況の把握と情報を集めますかね。


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