水森飛鳥と出水風弥は斯く語る――確認×説明×連なる世界Ⅰ
「で、何がどうなってる?」
水森飛鳥、十七歳。
現在、友人に説明を要求されてます。
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私にとって、『出水風弥』という存在は、一言で説明するのなら『友人』という言葉が近いのではないのだろうか。
少なくとも、夏樹や小夜よりは後に出会ったわけだし、その時期などから『幼馴染』というのは違うんじゃないのかと判断してのことだ。
そして、彼の人となりは一緒に居れば分かるし、その想いの先も見ていれば分かる程度にはなってきて。
『もう十二月だし、年越し前にちゃんと会って、話さないか?』
「そうだね」
そんな彼から、遊園地での出来事以来、こっちの世界では音沙汰無しだったことで、クリスマスも近いし、年越す前にそろそろ話しておこうということになったのだが。
――だからって、こんな状況、普通は予想できないんだけどな。
何が予想できないって、風弥がこの世界にいる理由を横に置いておくとしても、今いる場所が鷲尾さんたちがやってる喫茶店(しかも特別に個室)だとか、実はそこで風弥がバイトしてるんだとか、もう……もう……!
「……何で、何でここ……」
いや、この場所が駄目だというわけではないんだけど、場所が場所なだけに、当然、許容量過多を起こした私は、少しだけ情報整理の時間を貰ったわけである。風弥の方からしてみれば、何でその時間が必要なのか、分からないと思うんだけど、私には必要なんだよ。
「…………よし、風弥。今なら大丈夫な気がする。答えられることだけ答えるから、遠慮なく聞いてきて」
「遠慮なくって言ってるけど、それ、駄目なパターンだからな?」
今の私の勢いで聞きたいこと聞けるはずなのに、そうしない風弥の冷静さよ……。
「私、せっかく口を滑らせてあげられるチャンスを不意にする風弥のそういうとこ、好きだよ」
「褒めても貶してもねぇよな、それ」
そう言って、風弥は一回喉を潤すと、視線をこっちに向けてくる。
「で、本題だが」
やっぱ、本題ですよねー。
「何で、こっちにいる?」
「……」
さて、どう説明したものか。
一回、視線を彷徨わせる。
「……可能な範囲で話そうと思えば、出来なくはない。けど……」
風弥に話すとなれば、聞かなきゃならない。
「風弥って、自衛の手段って、何かあったりする?」
「は?」
いや、普通はそうなるよね。
「はっきり言うと、攻撃、もしくは防御系異能持ちなのかどうかを、先に聞いておきたい」
「どっちも無ぇな」
即答でした。
「そっかー。無いのかー」
「でも、お前みたいに攻撃とかに転用しようと思えば出来る異能ではある」
うん……?
私の異能のメイン能力は他人の会話を聞いたり、音を調節したりすることが出来るけど、使い方では聴覚破壊を引き起こすことも可能ではない。
もし、それが風弥の言う『攻撃とかに転用しようと思えば出来る』に含まれているんだとすれば、攻撃もしくは防御系異能は持ってはないけど、それなりの手段はあると言うことになる。
うん、でも、そっか。
「……可能であるなら、どちらかであっては欲しかったんだけどな」
「何か、厄介そうだな」
「本当、そうやって察してくれる所には感謝だよ」
参ったな。夏樹と比べると付き合いは短くても、あっさりと誤魔化されてくれるほどの付き合いの短さではないし、声のトーンや雰囲気とかで察してくれる。
それに元より、何が起ころうとこっちは覚悟して話す気で来ているのだから、逃げられない――いや、逃げるつもりはない。
「でも確認。話聞いたら戻れないし、下手すると死ぬかもしれない。それでも、聞く?」
正直、この件と無関係な風弥を巻き込みたくない。
でも、話しておかないと、何度も聞かれかねない。
「聞く。お前らが何に巻き込まれているのか聞いておかないと、何かあった時に小夜に説明できないしな」
「本当、即答だなぁ。あの子だけ、事後報告になるのが気になるけどね」
「それは仕方ないだろ。そりゃあ、あいつは気にするだろうが、お前らの無事と比べたら、些細なことだろ」
些細、か。
「それじゃ、話すよ。私と夏樹がこの世界にいる理由」
防音を強化して、口にする。
「そして、私たちに何が起こっているのかを。だから、約束して」
「約束?」
「小夜以外には話さないことと、風弥がこっちにいる理由も話すってことを」
「元より、そのつもりだ」
よし、これで双方隠さずに話すことは約束した。
口約束でもあるから、下手したら誤魔化される可能性もあるけど、それならそれで神崎先輩に聞けばいい。
「じゃあ、本題――ねぇ、風弥。『乙女ゲーム』って、知ってる?」
さあ、本題に入ろうか。




