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水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅢ・女神への連絡)


 正直、今はあの場に戻りたくないのだが、戻らないと桜峰(さくらみね)さんたちに捜されるだろうし、心配もさせてしまう。


「距離、取らないといけないのになぁ……」


 そうしないといけないというのに、私はまだ遊園地(ここ)にいる。


「……」


 ーーかなり離れたんだし、このまま帰っても、大丈夫じゃない?

 そんな悪魔の(ささや)きが聞こえる。

 今の私が居たところで、何かの役に立ててるわけでもないのに。


水森(みずもり)さん」

「……」


 もう追い掛けてきたのか。


「別に心配しなくとも、ちゃんと戻ったのに」

「あ、いや、その……」


 空気をおかしくしたのは私の方だというのに、何でそんな気まずそうなんだろうか。


「そうじゃなくて……!」

「早く戻ろうか。咲希(さき)たちも捜し始めちゃうと大変だし」


 そう言って、先ほど居た場所まで戻ってくるーーのだが。


「まだ来てない?」


 思わず周辺に目を向けるが、桜峰さんたちらしき人が見当たらないどころか、こちらに向かってくる気配すらない。


「……」

「水森さん?」


 何だか嫌な予感がしてきたので、少し考え込んでいたら、鳴宮君に心配そうな表情(かお)を向けられる。


「いや、何でもない。悪いけど、咲希たちに連絡してみてくれる?」

「水森さんはどうするの?」

「ちょっと、ね」


 もし、これが女神の仕業であると言うのなら、私には怒ってもいい権利があるはずだ。

 私と女神の連絡手段は手紙かメールの二択しかないのだが、宛先が分からない以上、手紙は送りようがないので、以前のメールに返信する形で、送信してみる。


『貴女、何かした?』


 これで、たとえ肯定も否定もしてきたとしても、女神の手が加わっていることが判明するはずだ。


『何のことかしら?』


 返事早いな、クソ女神。


『彼女たちが来ないのは、貴女のせいかと思って』

『あら、人聞きの悪い。全部を全部、私のせいにしないでもらえる?』


 そう思うように仕向けてるのは、そっちでしょうに。

 でも、これだけのやり取りだけで、女神のアドレスであることは確実だし、ほとんどゲットしたようなものだから、一応登録しておく。

 この先もやり取りするようなことがあれば、これで文句も言える。


『自分で人には近付くなって言っておきながら、咲希を近付けさせないのはどういう了見?』


 まさかとは思うけど、どちらとも引き離そうとしてるとか、考えてないよな?


『勘違いも、ここまで来ると笑えてくるわね。でも、私は何もしてないわ。“どうしても”合流したいと言うのであれば、自分たちで捜してみなさい』

「……」


 どういうこと? もし本当に、女神が何もしてないというのなら、桜峰さんが私から事情を聞き出すためだけに、夏樹(なつき)も連れて離れているということになる。


「……どこに居るのか、分かった?」

「あー、そのー……」


 桜峰さんたちに連絡をしていたであろう鳴宮君に確認してみれば、苦笑いを返される。


「まさか、聞いてないの?」

「聞いた。聞いたけど……」


 何だか、歯切れが悪い。


「エリアを移動中だって」

「は……?」


 この遊園地には三ヶ所のテーマ別エリアがあり、今居る場所を除けば、他に二ヶ所しかないわけだけど、それを移動中とか……!


「何考えんてんの!? あいつら!!」


 いきなり叫んだからか、鳴宮君はぎょっとし、周辺の人たちからは何事かと目を向けられる。

 だが、それぞれのエリアの広さを考えるに、さすがに両方捜しに行くほどの体力は私たちにはない。


「……」


 ……仕方ない、か。


「二手に別れるか、どちらか片方に絞って捜しに行くか。どうする?」

「俺が決めて良いの?」

「君の意見を尊重します」


 捜しに行けるなら、どちらでも良い。


「それじゃ――」

『――一緒がいい』

「――二手に別れようか」


 何となく、本当に何となくだけど、今、一瞬だけ――彼の『心の声』が聞こえた……ような気がした。


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