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水森飛鳥と絶望へのカウントダウンⅧ(新たな悩みの種)


 たとえどれだけ待たれようと、例の手紙の件に巻き込みたくないこちら側としては、鳴宮(なるみや)君たちからの信頼を地に落とすことになろうとも、何としても出来る限りの接触は避けなければならない。

 故に、逃げて逃げての日々の連続である。

 いっそのこと夏樹(なつき)が正気であれば、相談の一つや二つ洩らす程度のことも出来たんだろうが、相変わらずの様子だし。


「はぁ~~~~っ」


 盛大な溜め息を吐いたところで状況は変わらないが、罪悪感だけが心の中にどんどん積もっていく。

 誰かに相談したい。

 でも出来ない。

 これの繰り返しだ。


『ーー』


 ああ、移動しないと。

 彼らに捕まると面倒だ。


「……?」

「どうしたの?」

「いや、誰か居たような気がしたんだけど……気のせいだったみたい」


 こちらに気づいたのかと思ったけど、どうやらそんなことは無かったらしく、気のせいだと思って通りすぎていく。


「……あー、羨ましい」


 ああやって、普通に話したいものである。

 (かなで)ちゃんたちとも普通に話したいが、この事に触れられそうで、下手に一緒に居ることが出来ない。


「あ……チャイム」


 予鈴(チャイム)が鳴ったから、教室に戻らなければならない。


「あ、飛鳥ちゃん……」


 別に喧嘩したわけじゃないんだけど、どうにもそのような雰囲気だからか、教室内も私が入ってきた途端、静まり返る。

 そして、気まずい空気のまま、授業は始まった。


   ☆★☆   


「飛鳥ちゃん。お昼、一緒に食べよう?」

「……」


 ここから少しも逃がさないとでも言いたげな奏ちゃんに、今日だけは従ってあげてほしいと目で訴えてくる真由美(まゆみ)さんには折れるしかなかった。

 別に喧嘩しているわけじゃないと教室内に分からせるためにも、ここは了承するしか無かったのだ。


「……」

「……」

「……」


 集まれたからといって、そうすぐに話せる訳じゃない。

 奏ちゃんと真由美さんが何やら視線でやり取りしているが、その内容までは分からない。

 そして、まるで覚悟でもしたかのように、奏ちゃんが口を開く。


「あのね、飛鳥ちゃんに聞きたかったんだけど、私たち……何かしたかな?」


 やっぱり、そういう風に思うよね。


「いや、二人は何もしてないよ。ただちょっと、こっち側の事情で、話せる時間が無いってだけで」


 そう言えば、奏ちゃんと真由美さんが顔を見合わせる。


「そういうことなら別に良いんだけど、その様子だと御子柴(みこしば)たちにも話してないでしょ」


 真由美さんはよく見てるなぁ。


「……まあ、ね」

「ちゃんと寝てる? 顔色も良くないみたいだし」

「寝てるけど……そんなに悪い?」


 (むし)ろ、寝てるときぐらいしか安心できない状態だから、睡眠に関してはちゃんと取れているはずなんだけど……そっか。顔色、良くないのか。

 これじゃ、元の世界(あちら)小夜(さや)たちにも心配されてしまう。


「悪いね」

「そっか」

「悩みがあるなら、聞くよ?」


 ……ああもう、本当に優しいなぁ。私の友人たちは。


「大丈夫だよ。限界が近くなったら、ちゃんと言うから」

「限界になってからじゃ、駄目なんだからね? 別に私たちじゃなくても、クラスのみんなだって居るんだから」

「うん、分かってる」


 みんなが心配してくれていることも、何もかも。

 そうこうしていれば、昼休みはもう終わりらしい。


「二人と話せてよかったよ。少し気も紛れたし」

「それなら良かったかな」


 多分、笑顔は浮かべられているはず。


   ☆★☆   


 奏ちゃんたちと話せたからといって、そうすぐに気持ち全てを切り替えられるはずもなく。


「……」


 “音響操作(チューニング)”で盗聴しては、桜峰(さくらみね)さんや生徒会役員たちと遭遇しないようにし、廊下を歩いていく。

 本当に、どうすることが正解なんだろう。


「ああ、もう……!」


 またネガティブ思考になってる。

 せっかく抗えるだけ抗ってやろうって決めたばかりなのに。


「……あ」


 そういえば、桜峰さんの攻略状況はどうなっているのだろうか。

 サポートキャラ(設定)だというのに、ここ最近そういうことをしていない気がする……自業自得ではあるけど。


「……」


 久しぶりに、“調律(チューニング)”を桜峰さんに合わせてみる。


『……、……』

「……」

『……ぃ。……っ……てば』

「……」


 何だか、聞き覚えが無い声が聞こえて気がする。


『……ぃ、咲希(さき)先輩!』


 あ、今度はちゃんと聞こえた。

 先輩、って、呼んでたってことは、後輩なのかな?


『何回聞かれても、教えられないから』

『え~、良いじゃないですかぁ。教えてくださいよぉ』


 それにしても、媚びてるっていうか、腹立つ話し方をする子だなぁ。


『ーー飛鳥(あすか)先輩って、人のこと』


 私?


『だから、私もよく知らないんだってば』

『半年も一緒に居たのに?』

『悪かったね。半年も一緒に居たのに、何も知らなくて!』


 桜峰さんが……私のことを知らないのは無理もない。

 私のことを知りたければ、夏樹や同学年組に聞いた方が早いぐらいだ。


『むぅ、それじゃ、誰に聞いたら教えてくれますかね?』

『御子柴君や郁斗(いくと)君……でも、聞いたところで素直に教えてくれるとは思わない方がいいよ?』


 桜峰さんも桜峰さんであの二人のことは分かってるだろうから、そのための忠告だったのだろうが。


『大丈夫ですよ。皆さん、お優しいですから』


 ああ、何だろう。嫌な予感がする。

 きっと、後輩の子は笑顔を浮かべていることだろう。

 それが声だけとはいえ、容易に想像できてしまう。


「……っ、」


 でも、何でこのタイミング?

 私が知らない間に接触していたって言うの?


 そして、彼女(・・)が桜峰さんの立ち位置を狙っているのか、成り代わろうとしているのかは分からないけど、もし成り代わろうしているのなら、『女神』が許さないはずだ。私のように脅しに掛かるかもしれない。


「わた、しは……」


 一体、どう動くことが最善なんだろうかーー


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