水森飛鳥は逃げ出したいⅦ(類似世界からの脱出)
七月七日。七夕当日。
一週間前後の『七夕祭』だが、やはりというべきか、一週間もすれば、飽きが来る。
「飽きた」
思ったことをそのまま言えば、一緒にいる同学年組に苦笑いされた。
「水森さん、中々ストレートに言うねぇ」
「まあ、今年の場合は今夜の天体観測で終了だから、いい方じゃないのか?」
「天気予報、雨だったけどねー」
天気予報だと夜には雨が降るらしいから、織姫様と彦星様は今年は会えないのだろう。
「うん、そうなんだけど、どうせならみたいじゃん。天の川」
そこは同意である。
桜といい星空といい、この世界の自然風景は綺麗だ。秋なら紅葉すれば鮮やかだし、冬なら真っ白な雪で白銀の世界となる。
去年、それを見たとき、「さすが、類似世界」と思ったぐらいで、元の世界と見分けがつかなかったけど、それでも、この風景だけは画面越しでも見たいと思ってしまうほど、綺麗だった。
さて、ここで何故私が同学年組と一緒にいる理由だが、単に鷹藤君が鳴宮君についてきて、追い返すのも面倒くさかったから放置した結果、そのまま三人で話していただけである。
「ところで、話してて思い出したが、水森って友達いるのか?」
「……はい?」
「鷹藤ってば直球すぎ。でも、気になる」
二人に目を向けられる。
副会長が桜峰さんに直球に聞いたという、この前の話の続きか。
「ちゃんといるよ。……って、何で親でもない二人に言わなくちゃならないの」
「いるならいいんだ。だって水森さん、休み時間って一人っぽいし」
そう安心したかのように、鳴宮君はにこにこと笑みを浮かべ、鷹藤君も同意するように頷く。
というか、一緒にいるお前らが言うことか。それに、こっちはなりたくて一人になってるんだよ。
『よし、それじゃあ今夜晴れる……に、照る照る……でもぶら下げてみる?』
『もう遅いだろ』
……って、あれ? 今、何か変な聞こえ方したような……
『いいんだよ。こう……のは、気分……気分』
どうやら気のせいではないらしい。
ところどころ、途切れて聞こえる。
「……」
よく考えれば、おかしい。おかしすぎるのだ。
最初は少しばかり関わってしまっても、深入りしないようにはしていたのだが、少し冷静になって見てみれば、やっぱりこの状況はおかしいように感じてしまう。
神様が出来るだけ多くの加護を授けてくれたらしいが、桜峰さんの攻略対象二人が私と一緒にいるのは、どこかおかしく、違和感を感じる。
いや、桜峰さんには、個別ルートに入ってもらわないと私が困るんだけど、違和感を感じるようなやり方で、こっちに二人を寄越さないでほしかった。
(これが、設定と現実の差違……?)
これは、何らかの力の影響なのか。
現実はやはり現実ということなのか。
「……っ、」
「水森さん? どうしたの」
考え込んでいたため、鳴宮君が不思議そうに首を傾げた。
「いや、何でもないよ」
それでも、問わずにはいられない。
まさか今夜、何かが起きようとしているのかと……。
☆★☆
さて、時間は飛んで夜。
予報は外れ、晴れており、天の川もちゃんと見えている。
「……おおっ」
さすが、屋上。
そう言いたくなったが、未だに違和感が抜けないので、私は呑気に天体観測なんてできない。
「ん、来たか。さて、どっち?」
光り出した身体に、そう尋ねる。
この前から時折光っていたため、何となく予想できていた。
こちらで一緒になるのか。
向こうで一緒になるのか。
「……」
そっと目を閉じる。
何の変化も感じないが、少しずつ変わっているのだろう。
だから、唐突に聞こえた声には驚いた。
「っ、飛鳥……!」
目を開き、声のした方を向けば、そこにいたのはーー
「……え……うそ……」
目の前にいたのは、ずっと会いたいと思っていた幼馴染だった。
「夏樹……? え、でも、何で?」
疑問が次々と出てきたが、目の前にいる夏樹は悲しそうな顔をしていた。
そして、一言告げた。
「ごめん、飛鳥」
と。次の瞬間には、目の前が真っ暗になり、私は気を失った。
これにて、第一章は終了です
次回から第二章に入りますが、短編集の方では、飛鳥以外の視点を、こちらとは投稿順を変えて掲載しています
こちらでは、本編終了後に掲載予定のため、どちらを先に見るのかは、皆さんにお任せします