水森飛鳥と御子柴夏樹の関係はⅣ(彼女と彼は離れ行く)
新年、明けましておめでとうございます。
本年度も『水森飛鳥は逃げ出したい』をよろしくお願いします。
「うわ、寒っ!」
確かに冷たい風が吹いているから、寒いといえば寒い。
「中で話さないか? こんなに風が強いと、話そうにも話せないぞ」
「それもそっか」
別に二人で話すことが出来るなら、どこでも良いんだけど。
ーーというわけで、話し合いの場所は屋上の扉前です。
もちろん、屋内の方です。
「それで、夏樹さ。私が誰なのか、分かる?」
「は? 何言ってんだよ」
まあ、普通はそう聞き返すよね。
「いいから、答えてみてくれる?」
「水森飛鳥。俺の幼馴染で、クラスメイトだろ」
あ、それは覚えているんだ。
「そうだね。ーーなら、私は?」
「……は? さっき答えたばかりだろ」
「本当に、分からない?」
「はぁ?」
何言ってるんだとばかりに目を向けられるけど、夏樹なら知っているはずなんだけど、こっちじゃあまり姿を見せていないから、きっと無関係かどうでも良いと思われたのだろう。
「……やれやれ。私を認識してないって、飛鳥も先が思いやられるわね」
「まさかーー」
溜め息を吐きながら言ってやれば、今頃気付いたとでも言いたげに、ハッとする。
「気付くの遅いよ。ま、今のは確認事項みたいなものだし、さっさと本題に入るけど良い?」
「あ、ああ……」
「それで、風弥への質問、どうする?」
時間稼ぎするとは言ったが、これ以上引き伸ばしても意味がなさそうなので、さっさと本題に入る。
「質問?」
「あの日の帰りに決めたでしょ。次会うときまでに、何を聞くか決めるって」
正直、この話は不味かったりする。
下手をすれば、風弥に何らかの影響が及ぼされる可能性があるからだ。
あと、帰りに決めたと言ったが、あれはどちらかというと帰宅時だ。
ーーさて、気付くかな?
「質問。質問なぁ……」
指摘無し。
分かっててなのか、知らないが故に出してこないだけなのか。
「最近の様子、とか?」
最近の様子、ね……
「それ、考えてないだけだよね」
少なくとも、元の世界分なら聞く必要はないはずなのだ。
こちらでの、という主語が付くならともかく、無い以上は、私の推測でしかない。
「なら、そっちはあるのかよ」
今度は私が聞かれる番だった。
私が聞きたいことなんて、山ほどある。
ただ、それは風弥だけじゃなくて、夏樹にも、だが。
「そうだね……」
考える素振りはしてみるものの、今の夏樹に言ってもなぁ……
「たとえば、こっちに戻ってきてからのこと、とか」
本当は逆なのだが、夏樹を通じて女神がこっちを見ているとなれば、話は別だ。
『この件』と何も関係ない風弥を巻き込む気はこれっぽっちもないし、これから先もエンディング期間が来るまでは教える気もない。
「あの子へのプレゼントはもう買ったのか、とか」
小夜も『この件』には関係ないから名前をぼやかし、何のプレゼントなのかも曖昧にする。
直近でクリスマスがあるから、事情を知らない人はクリスマスプレゼントだと思うだろうが、私が言った『プレゼント』は、十一月生まれである彼女への『誕生日プレゼント』だ。
あの二人とも付き合いの長い夏樹なら、何となくでも察してくれるかと思ったのだが、どうやらそれも難しかったらしい。
「プレゼント? ああ、クリスマスのか。もうすぐだもんなぁ」
違うんだけど、女神がどれだけの力を夏樹に掛けたのか、何となく分かってしまう。
「クリスマスといえば、夏樹は今年はどうするの?」
「どうするって?」
「一緒に過ごすのか、家族で過ごすのか」
これも主語抜きで聞いてみた。
「どうなんだろうなぁ。まあ、出来れば、一緒に過ごせれば良いとは思っているが」
「ーー咲希と?」
「他に誰が居るんだ? まさか、自分なんて言い出さないよな?」
そう言って、くっくっと笑い始めた夏樹に、首を横に振って否定する。
「でも、プレゼント渡す時間ぐらいは確保しておいてもらえると助かるかな」
何を渡すのかはまだ決まってないけど、それでも毎年渡している以上、やっぱり今年も渡したいし、もし今年渡せないようなら、バイトやら何やら気を紛らわさせるような予定を入れるしかない。
「分かった」
絶対分かってないと思うから、期待せずに待っておこう。
そう決めたタイミングで、桜峰さんからのメールが届く。
『第一回作戦会議、無事に終了しました(゜∀゜)ゞ』
……とりあえず、無事に終了したようで何よりです。
『それで、話し合いの結果、まずは飛鳥に任せてみようってことになったよ!』
『まずは』どころか『これからも』になるだろうに。
あとそれは、丸投げって言うんだよ。お姫様!
☆★☆
さて、その後のことなのだがーー……
「なぁ、御子柴。結局、お前って何がしたいわけ?」
三時限目の休み時間には、何かを察したのか、桜峰さんから引き剥がすことすら敵わず、状況を見に来たであろう同学年組とトラブり掛けーー
「御子柴ー。ちょーっと付き合え」
昼休みは昼休みで斎木君たち男子のみで話題は適当に話しつつ、時間稼ぎしーー
「夏樹。まだ話が終わってないから、話の続きをしようか」
「……」
五時限目の休み時間に声を掛けに行けば、これまた察知したのか、さーっと顔色を変える始末。
いやまあ、そこまで嫌がるなら無理にとは言わないんだけど、それが桜峰さんに会うための口実なんだとしたら、夏樹にとって私たちとの繋がりよりも、彼女を優先していると思えて仕方がないのだ。
彼女のことが好きなら好きで、それでいいのだが、何で私に一言無いのだろうか。別に嫉妬に狂って彼女を傷つけるようなことをするつもりも無いから、どんな報告をしてきたところで驚くだけだというのに。
「……もう、お前一人で決めれば良いじゃん。俺にいちいちお伺いを立てる必要も無くなるだろ?」
「……ら」
「ん? 何か言ったか?」
「別に。何でも無いよ」
けれどまあ、間違ったことは言ってないのだ。
ただ、今あるこれは他の人たちを巻き込んでしまった私のエゴで我が儘。
「とりあえず、少し自分で考えてみるから、夏樹は夏樹でちゃんと考えておいてよ」
まあ、そう言われたからって考えるとは思わないけど。
私が離れてちょっとしてから、夏樹が席を立ったのを確認すれば、すぐにメールを打って送信する。
『ごめん、今そっちに向かわれたかも』
ーー本当にごめん。力不足で。
でも、もう私の声が届きにくいってことは分かったから。




