水森飛鳥と御子柴夏樹の関係はⅡ(そして、関係は変化し始める)
途中、視点変更があるので注意。
多分、この日は普通だったんだと思う。
「……遅い」
季節は完全に冬に移るためか、気温的にも少しずつ冷えてきたものの、軽い防寒対策ぐらいなら、まだ外で過ごせるといえば過ごせはする。
それにしても、遅い。
別に強制しているわけでもないが、“音響操作”で聞いている限りだと、こちらに来るような雰囲気は聞いていて分かってはいたから、そろそろ着く頃だとは思っていたのだが。
「何だろう。……嫌な予感がする」
勘違いで済めばいいのだが、残念かな、こういう時の勘はよく当たる。
「……っ、」
たとえ、鳴宮君たちのような元からこの世界に居る人ならともかく、私や夏樹のように神崎先輩の加護を出来る限り受けた人なら、女神の力を弾くことは出来るはずだし、もしそれが不可能だとしても、軽減ぐらいは出来るはず。それに、女神があれとは別のーー何らかの影響を与えようとするなら、目に見えて分かる形で何かが起こるはずなのだ。強風が吹いたり、地震が起きたりといった、自然現象的なものが。
もし仮に、前回のがそう思わせるためだけにそうしただとか、今回は目に見える形で何も起きていないから、何も起こるはずがないのだとか、思い込まされているのかもしれないが、その可能性を視野に入れつつも、そう私は考えたりするわけで。
「ーー」
故に、このタイミングで何も起きてほしくはないのだ。
☆★☆
「っ、」
最近は治まっていたはずの頭痛が、また出始めた。
「くそっ……!」
ただでさえ、風弥の問題もあるというのに、こんなタイミングで飛鳥を一人にするわけにはいかない。
「……やってくれる」
どうやら『女神』とやらは、どうしても俺を仲間に入れたいらしい。
もしそうなれば、いくら先輩たちに助けを求めたとしても、直接的な協力は不可能だろうし、何より、あいつはーー飛鳥は、一人ぼっちになってしまう。
そもそも、俺たちの事情をおいそれとこの世界の人たちには話せないことから、それを見越しての引き抜きなのだろう。
「早くーー」
飛鳥の元に行かなければ。
神崎先輩の加護のおかげか、飛鳥の近くに居れば、時間に関係なく、頭痛が起こることは無かった。
「あれ? 御子柴君?」
うわ、このタイミングで会うとか最悪だろーー……って、女神にしてみれば、『最高』にして『最良』なのか。
『うふふふ、貴方も私に協力してちょうだい。そして、永遠の箱庭で、ずぅっっと愛を語り合うの』
そんな声が聞こえる。
「ねぇ、大丈夫?」
『抵抗するのを止めれば、早く楽になれるわよ?』
「御子柴君、しっかりして! 今、飛鳥を呼んでーー」
桜峰と女神の声が重なって聞こえる。
「いや、その前に保健室行こう」
俺の様子が尋常じゃないと判断したのか、桜峰が俺を保健室に連れていこうとする。
ーー悔しい。
あいつだって、特別何かに強いわけじゃないのに。
だからこそ、少しでも手伝うために、負担を軽くしてやるつもりでこの世界に来たのに、こんなザマじゃ、一体何をしに来たのか分からない。
「……! ……!」
ヤバい。桜峰の声すら遠くなってきた。
次に目が覚めたときは、きっと桜峰と居ることになるんだろうな。
『いいか、御子柴。俺と同じ過ちだけはするなよ。もし、そんなことをすればーー水森が悲しむだろうし、下手をすれば泣かせることになるだろうからな。斯く言う俺は、うっかり嵌まって雛宮を悲しませたことを後悔してる。故に、お前には俺と同じことを思ってほしくない』
けれど、魚住先輩との約束も守れそうにない。
せっかく頼りにしてくれたのに、俺がこんなんじゃ、もう二度と頼ってももらえないよなぁ。
ーー不甲斐ない幼馴染で悪い。あと、一人にすることを先に謝っておくから。だから、飛鳥……
「夏樹?」
何だか、呼ばれた気がしたから、思わず屋上の扉を見てしまう。
先程と変わることなく、誰かが来る気配がない。
「まさか、ね……」
何も、起きてないから。
故に、何かが変わったなんて、思いたくないけど。
「……っ、」
どうやら、覚悟しなければならないらしい。
そしてーー……
「……夏くん?」
私たちに最も関係のある人物が、この問題に関わり始めようとしていたのである。
ちなみに、一番最後の「夏くん」呼びした人は新キャラです。




